Vol. 25 No. 3 の要旨

報文

土壌中における除草剤ペントキサゾンの微生物分解*

 ベンゼン環を14Cで標識したペントキサゾンを2種類の日本産水田土壌に処理し,湛水条件下でその代謝分解を追跡した.ペントキサゾンは処理後穏やかに分解されて様々な代謝物を生じ,最終的には二酸化炭素へと無機化された.14CO2の発生量は施用量の約23%(山形土壌)および8%(牛久土壌)であった.湛水土壌を滅菌すると14CO2の発生はみられず,ペントキサゾンの分解速度は非滅菌に比べ明らかに遅くなった.このことからペントキサゾンの分解の大部分と無機化は土壌微生物の作用であることがわかった.湛水土壌での主な分解経路は,A-0089への還元,加水分解によるオキサゾリジン環の開裂によるA-0505の生成とそのA-1374への還元,酸化的脱シクロペンチルによるA-1347の生成であった.一方,畑条件下で同様の実験を行ったところ,施用した放射性ペントキサゾンは14CO2の発生を伴って速やかに減少し,代謝物としてA-1347とその水酸基のメチル化体であるA-1292が少量検出された.このことから,ペントキサゾンは主に好気性菌によって無機化されることが示唆された.
* 除草剤ペントキサゾンの微生物分解(第2報)

砂質露地畑におけるパンライシメータ法による農薬鉛直浸透量の測定

除草剤イマゾスルフロンの土壌における吸着及び脱着

 ピリミジン環の炭素を14Cで標識したイマゾスルフロンを用いて土壌に対する吸着および脱着を検討した.5種類の土壌に対するイマゾスルフロンのバッチ法による土壌吸着平衡はいずれも2時間で到達し,FreundlichのK値は0.96から5.27の範囲と求められた.2種類の土壌にイマゾスルフロンを混和後0,7,30および60日目に土壌中に残存するイマゾスルフロンの土壌脱着定数を測定した.処理後0日目の土壌脱着定数は0.98および15.7と求められ,その後経時的に増加し,60日目には35.8及び37.0を示した.以上のことから,土壌中に残存するイマゾスルフロンは,時間の経過に伴って土壌より脱着し難くなることが明らかとなった.

農薬の地表流出シミュレーションのための小規模モデル試験系の開発(英文)

 圃場における散布農薬の地表流出状況を把握するため,降雨条件等を制御した小規模な屋内モデル試験系を検討して確立した.傾斜5度にした大型コンテナ容器(0.7 m2)に作土層の土壌を充・填した試験区を設定し,人工降雨装置(可変降雨強度:10〜80 mm/hr)を設置して,各降雨条件下で表流水を発生させた.試験区にTPN,ダイアジノン,ジメトエートの混用液を散布した後,圃場(840 m2)で表流水が発生した降雨条件を再現した結果,圃場とほぼ同じ流出水量(l/m2)が得られた.そして農薬の水中濃度および流出率を測定した結果,・圃場測定値とほぼ一致した.また,本試験系を用いて各降雨強度による表流水の発生条件を明らかにした.圃場の降雨データから得られた発生予測水量は実際に得られた水量よりは高めであった.また,モデル試験(降雨30 mm/hr,表流水1l)では,薬剤散布後の日数(1〜21日)の経過とともに3農薬の水中濃度は著しく低くなった.作物栽培区と無作物区における表流水中の農薬濃度および流出率を比較すると,作物の有無による相違はわずかであった.

ナスへの農薬散布におけるノズルの動きによる散布むら

イエバエの成虫に経口投与したシロマジンが生殖と次世代の発育に及ぼす影響(英文)

 シロマジンを水に溶かして最大1000 ppmまでの濃度をイエバエ成虫に経口投与した場合に,産卵数,孵化率,およびその後の幼虫発育に及ぼす影響について調べた.羽化直後成虫に500または1000 ppmのシロマジンを連続的に経口投与すると,次世代の幼虫の発育は完全に阻害されたが,この効果は雌成虫処理によってのみ発現した.シロマジン投与を羽化直後から4日間だけに限定した場合は,次世代幼虫の発育阻害効果は第1産卵期の卵から孵化した幼虫にのみ見られた.成虫の交雑組み合わせやシロマジン投与濃度にかかわらず,産卵数,孵化率,蛹化率,羽化率には影響が見られなかった.

除草剤の水田土壌への吸着速度式(英文)

 水田除草剤の環境負荷や殺草効果に影響を与える土壌への吸着特性を知るため,4種の除草剤エスプロカルブ,ベンチオカーブ,プレチラクロールおよびシメトリンを用いて,新潟,兵庫,熊本の3種の水田土壌に対する吸着速度を測定した.実験した全ての系で吸着速度が2段階になることを見いだし,平衡吸着量に対する速く吸着する割合αが除草剤濃度によらないことを示した.この結果とBoyd式の近似式から,2段階の吸着速度式を提案してその適用性を確かめた.早い吸着の割合αが0.19から1.0で土壌と除草剤との組み合わせによって大きく異なるが,供試した土壌や除草剤の物理化学的性状との相関が見いだせなかった.また,遅い吸着の速度パラメータDi′/rは3.4×10-7/secから7.3×10-7/secの範囲であり,土壌や除草剤の種類による差は小さかった.

(α-メトキシベンジル)イソオキサゾール誘導体の合成と殺菌活性(英文)

 種々の3-(α-メトキシベンジル)イソオキサゾール誘導体を合成し,イソオキサゾール環部分およびベンゼン環2位の置換基と殺菌活性発現における構造と活性相関を調べた.その結果,イソオキサゾール環部分が3-メチル-5-イソキサゾリル構造の化合物が高い殺菌活性を示した.ベンゼン環2位の置換基は,4-フェニル-2,3-ジアザ-1,3-ペンタジエニル基を導入した化合物が高い殺菌活性を示した.4-フェニル-2,3-ジアザ-1,3-ペンタジエニル基のベンゼン環部位には,4-ブロモ,4-トリフルオロメチル,3,4-ジクロロ基が置換した場合に高い殺菌活性を示した.中でも,5-[2-{4-(4-ブロモフェニル)-2,3-ジアザ-1,3-ペンタジエニル}-a-メトキシベンジル]-3-メチルイソオキサゾール(23)は,キュウリうどんこ病およびキュウリべと病に対して優れた防除活性を示した.

ニンニクの貯穀害虫に対する忌避効果(英文)

玄米にニンニクの小片,オロシ,および揮発性成分抽出物を処理すると,貯蔵害虫のコクゾウムシとコクヌストモドキに対して忌避効果を示したが,殺虫活性はなかった.ニンニクおよびその抽出物は供試した農業害虫のコナガ幼虫とモモアカアブラムシに対しては忌避効果も殺虫活性も示さなかった.一方比較試験に供試したトウガラシとワサビについては,いずれも貯蔵害虫に対して忌避効果がないか,あるいは著しく弱い効果しか示さなかったが,ワサビの揮発性成分は貯蔵害虫両種に対して殺虫活性を示した.ニンニクの揮発性成分を捕集しGC-MSで分析したところ,4つの主要なピークが分離され,アリシンの急速な分解によって生成したスルフィド化合物と,その脱水素反応によって生成した環状化合物と推定された.忌避効果がアリシン自体,その分解物,あるいはそれらの混合物に由来するかについては不明である.

3-(1-アルケニル)ピリジンの合成と早熟変態誘起活性(英文)

1-アルケニル基を有する一連の3-ピリジン誘導体を合成し,カイコ4齢幼虫に対する早熟変態誘起活性を検討した.3-(2-メチル-1-フェニル-1-プロペニル)ピリジン(18)が最も高い早熟変態誘起活性を示し,エチレン基1位のフェニル基と2位の短いアルキル鎖の両方が活性に重要であった.化合物18によって誘導される早熟変態は幼虫期間の延長と体重の増加を伴った.また,この早熟変態は20-ヒドロキシエクダイソン及び幼若ホルモンアゴニストであるメソプレンのどちらによっても打ち消された.4齢起蚕に18を処理すると,5齢への脱皮に必要な体液中のエクジステロイドの増加が抑制された.これらのことから,18は抗エクジステロイドとして作用し,体液中のエクジステロイド量を一時的に低下させ早熟変態を誘導することが示唆された.

短報

N-シンナモイル-α-アミノ酸エステル類の合成と抗菌活性(英文)

 新しい殺菌剤開発のためのリード化合物を探るために,60種類のN-シンナモイル-α-アミノ酸エステル誘導体を合成し,植物病原菌に対する抗菌試験を行った.その結果,ケイ皮酸のベンゼン環4位にイソプロピル基を導入した化合物が強い抗菌活性を示した.

ケイ皮酸エステルとアミド類の抗菌及び植物成長阻害活性(英文)

 数多くのケイ皮酸エステル及びアミド化合物を合成し,それらの抗菌及び植物生長阻害活性試験を行った.抗菌活性の強さはシンナモイル基のベンゼン環上の置換基の影響を受けて著しく変化した.4位にイソプロピル基あるいは塩素原子を導入すると抗菌活性の増加が認められた.低級アルキルアミド化合物はアニリド化合物より強い活性を示した.N-Isopropyl-4-chlorocinnamamide(N-35)は全化合物中で最も強い抗菌活性を示し,10 ppmで白絹病菌(Corticium rolfsii)の生育を66%阻害した.エステル誘導体の中では,ベンゼン環の4位に塩素原子を導入した methyl 4-chlorocinnamate(O-19)が白絹病菌に対して強い抗菌活性を示した.植物生長阻害試験結果では,ほとんどの化合物が胚軸より幼根に対する阻害活性が高かった.

(α-メトキシベンジル)イソオキサゾール誘導体の殺菌・殺虫活性発現における鏡像異性の効果(英文)

 我々は先に,3-(α-メトキシベンジル)イソオキサゾール誘導体が,殺菌・殺虫活性を有することを報告した.本報告では,3-(α-メトキシベンジル)イソオキサゾール誘導体の殺菌・殺虫活性発現における鏡像異性の効果を調べるため,5-[2-{4-(3,4-ジクロロフェニル)-2,3-ジアザ-1,3-ペンタジエニル}-α-メトキシベンジル]-3-メチルイソオキサゾールの鏡像異性体を合成し,それらの立体配置をX線回折法で決定した後,キュウリうどんこ病,キュウリべと病およびモモアカアブラムシに対する活性を評価した.その結果,いずれの場合もR体の活性は,S体よりも10倍以上高かった.

技術情報

グリホサートの毒性試験の概要

 


トップページへ


日本農薬学会

http://wwwsoc.pssj2.jp/pssj2/index.html


Copyright (C) 2003 Pesticide Science Society of Japan. All rights reserved.