Vol. 26 No. 2の要旨

報文

インドキサカルブおよび脱メトキシカルボニル代謝物の有機リン剤抵抗性および感受性イエバエに対する殺虫活性と皮膚透過性(英文)

 新規殺虫剤であるインドキサカルブは,感受性系統(SRS)および有機リン剤抵抗性(R-OP)系統イエバエに対し高い殺虫活性を示したが,R-OP系統のほうがSRS系統と比較して感受性が低下しており,抵抗性比は2.5倍だった.同様の傾向は代謝物であるDCJWにおいても見られ,抵抗性比は6.1倍だった.系統間における殺虫活性の違いの原因を明らかにするために,標識化合物を用いて皮膚透過性を調べた.その結果,SRS系統に比較してR-OP系統では両化合物の皮膚透過量の減少,体内蓄積量の減少が認められた.以上のことからR-OP系統における殺虫剤に対する感受性低下は,皮膚透過性の低下が主な要因であると考えられた.また,インドキサカルブとDCJWの間で排泄量に大きな違いが認められたので,このことも化合物間で見られる殺虫活性の違いのひとつの要因となっていることが考えられた.N-(3-bromo-2-hydroxy-2-phenypropyl)-4-chloro-N-difluoromethyl-3-methylben-zensulfonamideも同様に十分な安定性と高い活性を有していた.両化合物は水田の禾本科雑草全般および一部の広葉雑草に対し強い活性を示し,かつ移植水稲に対しては薬害を示さなかった.

新規ベンゾフェノンO-メチルオキシム誘導体の合成と殺ダニ活性(英文)

 新規なベンゾフェノンO-メチルオキシム誘導体を合成し,それらの殺ダニ活性を評価した.困と活性の相関性を調べた結果,左側のフェニル基2位の置換基は,5-トリフルオロメチル-2-ピリジルオキシメチル基を導入した化合物が最も高い殺ダニ活性を示した.O-メチルオキシム部分の幾何異性体間の活性を比較した場合,Z体の方がE体より高かった.また,右側のフェニル基の置換基は,4'-クロロ,4'-ブロモ,4'-トリフルオロメチル基で置換した場合に高い活性を示した.中でも,4'-クロロ-2-(5-トリフルオロメチル-2-ピリジルオキシメチル)ベンゾフェノンO-メチルオキシム(21)は,ナミハダニおよびカンザワハダニに対して優れた活性を示した.

水田土壌中における土壌微生物バイオマスおよび微生物数の自然変動 ―土壌生態系に及ぼす農薬の影響評価に向けて―(英文)

 水田土壌中の微生物に及ぼす農薬の短期的影響の非日常性を評価するための基準を示す目的で,無農薬・無化学肥料水田および慣行水田土壌中の環境条件,微生物バイオマスおよび微生物数に関するパラメーターの季節的変動を2年間にわたって調査し,日常的に起こる変動の幅を明らかにした.パラメーターの変動パターンは両水田で概ね類似した.また慣行水田においても,農薬等が原因と思われるようなパラメーターの変動は認められず,湛水や落水のような両水田に共通の要因によって変動しているものと考えられた.両水田におけるパラメーターの値や変動パターンは既報ものと概ね一致し,日本の水田土壌として典型的なものであることが示された.これらのことから,両水田土壌中の微生物バイオマスおよび微生物数の変動幅は農薬の影響を評価するための基準として妥当であると考えられた.微生物バイオマスおよび微生物数の日常的な変動率は,バイオマスに関しては1週間あたり0.86から1.21倍,微生物数に関しては0.80から1.40倍であった.水田土壌微生物に及ぼす農薬の短期的影響の非日常性を評価するための基準として,それらの変動率を提案する.

抗菌活性を有する2-アニリノ-4-フェニルチアゾールの合成およびそのステロール生合成阻害活性(英文)

 我々は先に,T. mentagrophytesB. cinereraに対して高い抗菌活性を示すと同時に,それに対応した強いスクワレンエポキシダーゼ阻害活性を示す3-(2,6-ジクロルフェニル)-5-フェニルアミノ-1,2,4-チアジアゾール類を見出した.スクワレンエポキシダーゼ阻害剤は二つの疎水性ドメインと,それらをつなぐスペーサーからなるというNussbaumerらのモデルを参考にして,スぺーサー部分の構造要件を探るために,チアジアゾール環をチアゾール環に変換した化合物を合成した.それらの化合物の多くはin vitroにおいてT. mentagrophytesB. cinereraに対して比較的高い抗菌活性を示し,[2-14C]酢酸の取込によるスクワレンの蓄積量は,抗菌活性と良く相関した.最も高い抗菌活性を示した化合物は2-(4-クロロフェニルアミノ)-4-(2,6-ジクロロフェニル)チアゾール(5)であり,医用抗真菌剤として知られるトルナフテートにまさった.また,Saccharomyces cerevisiaeの無細胞系におけるメバロン酸からのステロール生合成アッセイにおいても,化合物(5)は顕著なスクワレンの蓄積を示した.これらのことにより,化合物の第一の作用点はスクワレンエポキシダーゼであると思われる.

1,4-ベンゾジオキサン環をもつN-置換-2-ピペリドン類のヒエ種子発芽に対する阻害活性(英文)

 種々の3-置換-2-ピペリドン類とその関連化合物について,白ヒエ種子の発芽に対する阻害活性を検討した.2-ピペリドンの3位へ1,4-ベンゾジオキサン環を導入することにより,無置換フェニル化合物に比べて著しい活性の増加が認められた.供試化合物中,3-[1-(1,4-ベンゾジオキサン-6-イル)-1-ヒドロキシメチル]-N-シンナミル-2-ピペリドン(55)が最も高い活性を示し,1 nMで種子の発芽を90%以上阻害した.エリスロ‐55のみが活性を示し,スレオ体は1 μMでも活性は認められなかった.この結果は,水酸基の存在と1,4-ベンゾジオキサン部位の立体化学が活性発現に重要であることを示唆した.エリスロ-55の水稲種子に対する発芽阻害活性はヒエの場合と比べて1/10であり,選択性を示した.

パママイシンの脱N‐メチル化の気菌糸誘導活性と生育阻害活性におよぼす効果(英文)

 Streptomyces alboniger IFO 12738の培養物中に新規pamamycin同族体の存在を見出し,ODS-およびNH2-カラムを用いたHPLCにより精製して新規同族体を単離した.これらの構造は,methionine-methyl-d3 添加培養により得られたラベル化合物の助けを借りて,MSスペクトル分析によりde-N-methylpamamycinsと決定された.De-N-methylpamamycinsは,同じアルキル置換基の配置を有するpamamycinsと比較して,気菌糸誘導活性は上昇し,生育阻害活性は低下した.

短報

施設栽培における殺虫・殺ダニ剤の散布時期とナシ葉の薬害(和文)

 

サウジアラビア産ネッタイイエカにおける各種ピレスロイド剤の化学構造と抵抗性レベルの相関(英文)

 サウジアラビア産のパーメスリン抵抗性ネッタイイエカ(JPal-per系統)について各種ピレスロイド剤に対する抵抗性レベルを調べた.JPal-per系統は実験に用いた13種のピレスロイド剤すべてに対し抵抗性を示したが,そのレベルには5.6〜4160倍という開きが認められた.抵抗性レベルはピレスロイド剤のアルコール部位の構造に依存する傾向が認められ,3-フェノキシベンジル基をもつピレスロイド剤では,α位にシアノ基をもたない化合物に対しては2000倍以上の高い抵抗性を示したが,α-シアノ-3-フェノキシベンジル基をもつ化合物に対しては39〜56倍の抵抗性しか示さなかった.3-フェノキシベンジル基のα位にシアノ基が存在するか否かが本系統の抵抗性機構に大きな影響を及ぼしていることが示され,この抵抗性レベルの違いがピレスロイド剤の作用点であるナトリウムチャネルの薬剤感受性の差違,もしくは解毒酵素チトクロムP450の基質特異性の差違に起因している可能性について考察した.

イミダゾ[1,2-a]ピリジン部分を有するスルホニル尿素系化合物の合成と除草活性(英文)

 イミダゾ[1,2-a]ピリジン環を有するスルホニル尿素系化合物の畑地雑草に対する除草活性を調べたところ,縮合環上2位にメチルスルホニル基を有する化合物が興味ある活性を示した.そこでその類縁化合物を合成し,それらの除草活性を調べた.また,類縁体合成の過程で鍵中間体の簡便な合成法を見出した.合成したスルホニル尿素系化合物の中で1-(2-エチルスルホニルイミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イルスルホニル)-3-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル)ウレア(TKM-19)は出芽前,出芽後処理のどちらでも高い除草活性を示し,小麦に対して選択性を有していた.また,このものは既存の除草剤では防除が困難なウマノチャヒキに対しても卓効を示した.

ハスモンヨトウ幼虫への局所施用による農薬の浸透速度と分配係数との相関(英文)

 有機リン剤,ピレスロイド等の11農薬の14C,3Tラベル化合物を用いてハスモンヨトウ(Spodoptera litura)5令幼虫における外皮からの浸透,分布を検討した.6種の有機リン剤において1次の浸透速度と各農薬の水‐オクタノール分配係数との間には高い負相関が認められたが,基本骨格の異なる全農薬を対象とした場合にはさらに農薬分子の水素結合能を表現するパラメータ(NW)を導入する事により浸透速度を表現できる相関式を得る事ができた.本相関式より農薬分子の疎水性が小さく,かつクチクラとの水素結合を形成しにくい化学構造を有する農薬ほど外皮からの浸透速度が速くなる事が示唆された.

2-(α-メトキシイミノベンジル)-1-メチルイミダゾール誘導体の合成と殺菌活性(英文)

 我々は先に,(E)-2-[2-(4-クロロ-2-メチルフェノキシメチル)-α-メトキシイミノベンジル]-1-メチルイミダゾール(A)が,キュウリうどんこ病およびキュウリ灰色かび病に対して優れた防除活性を有することを報告した.本研究では,さらに優れた殺菌活性を有する化合物の探索を目的として,4-クロロ-2-メチルフェノキシメチル基部分を変換した2-(2-置換α-メトキシイミノベンジル)-1-メチルイミダゾール誘導体を合成し,殺菌活性を調べた.その結果,2位に(置換α-メチルベンジル)オキシイミノメチル基を導入した化合物は,キュウリうどんこ病およびキュウリべと病に対して高い殺菌活性を示した.α-メチルベンジルオキシイミノメチル基のベンゼン環部位には,4-トリフルオロメチルおよび4-トリフルオロメトキシ基が置換した場合に最も高い殺菌活性を示した.

解説

植物‐害虫‐天敵三者間の相互作用について

Kew words: 三栄養段階相互作用,情報化学物質,揮発性物質,捕食性天敵,寄生蜂,害虫,防御遺伝子.


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日本農薬学会

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