Vol. 27 No. 2の要旨

報文

新規な2-(1-carbamoyl-1,2,4-triazol-3-ylsulfonyl)alkanoate誘導体の合成と除草活性(英文)

 一連の新規な2-(1-N,N-ジアルキルカルバモイル-1,2,4-トリアゾール-3-イルスルホニル)アルカン酸エステル誘導体を合成し,種々の雑草に対する除草活性を調べた.除草活性はアルコキシカルボニル基のα位の置換基とカルバモイル部の窒素原子上の置換基により変化した.合成した全ての化合物の中で,アルコキシカルボニル基のα位に分岐状のアルキル基を有する1-N,N-ジアルキルカルバモイル-1,2,4-トリアゾール誘導体が高い除草活性を示した.α位のキラリティーは除草活性に効果を及ぼさなかった.生物評価に基づいて,2-(1-N,N-ジエチルカルバモイル-1,2,4-トリアゾール-3-イルスルホニル)-4-メチルペンタン酸イソプロピルが,移植水稲用除草剤としての候補化合物として選抜された.疎水性パラメータlog k´を用いた構造活性相関(SAR)の研究より,疎水性が除草活性に顕著な影響を及ぼしていることが明らかとなった.

キーワード: 2-(1-N,N-dialkylcarbamoyl-1,2,4-triazol-3-ylsulfonyl)alkanoates, herbicidal activity, chirality, hydrophobicity.

オキシフルオルフェン抵抗性および非抵抗性ダイズ培養細胞間におけるプロトポルフィリンIXの蓄積の差異(英文)

 ミトコンドリア型プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(プロトックス)の過剰発現によりオキシフルオルフェン(2-chloro-4-trifluoromethylphenyl 3-ethoxy-4-nitrophenyl ether)に抵抗性を示すと推定される選抜ダイズ培養細胞と非抵抗性の通常ダイズ培養細胞を用いて,薬剤処理によるプロトポルフィリンIXの蓄積量ならびに螢光顕微鏡像を比較した.プロトポルフィリンIXの蓄積量はすべての条件下で抵抗性細胞の方が少なく,またプロトポルフィリンIXに起因する赤色の螢光は通常細胞の細胞質,および膜系でのみ認められた.抵抗性細胞ではクロロフィルからの自家螢光が観察されたが,オキシフルオルフェン処理によりその螢光は消失した.これらの結果は先に示した抵抗性機構をより強く支持するものであるとともに薬剤処理後のプロトポルフィリンIXの局在についての他の報告の知見と一致するものである.

キーワード: oxyfluorfen, protoporphyrin IX, localization, resistant, soybean cell.

殺菌剤ジニコナゾール光分解に関する実験的および理論的考察(英文)

 殺菌剤ジニコナゾールは,メタノール中におけるUV (λ>250 nm)照射によりE/Z異性化が進行するとともに,分子内環化反応によりイソキノリン誘導体を生成した.半経験的分子軌道法であるAM1計算並びに核スピン‐格子緩和時間の測定により推定されるZ-異性体の立体構造から対応する螢光性のフッ素誘導体の電子遷移を配置間相互作用を加味したCNDO/S計算により解析し,この結果に基づいた光分解反応指標(ΔMij)から,光誘起環化反応は励起一重項を経て進行する事が示唆された.

キーワード: photodegradation of diniconazole, molecular orbital calculations, nuclear spin-lattice relaxation time, photolysis index.

α-Methoxyphenylacetic acid誘導体の殺菌活性(英文)

 種々の α‐置換フェニル酢酸誘導体を合成し,殺菌活性における構造と活性相関について調べた.2‐フェノキシ‐α‐置換フェニル酢酸誘導体には高活性の化合物を見出せなかったが,2‐フェノキシメチル‐α‐置換フェニル酢酸エステル誘導体ではフェノキシメチル基のベンゼン環の2位がメチル基または塩素原子で置換された化合物に幅広い活性スペクトラムが認められた.また同酢酸アミド誘導体では,ベンゼン環の2‐メチルまたは2‐塩素置換に高い活性が認められた.モノ‐置換体に比較し2,3‐,2,4‐,2,5‐ジメチル置換体および2,3,5‐トリメチル置換体の活性はさらに高く,スペクトラムも広かった.2,5‐ジメチル置換体の α‐置換基はメトキシ基,酢酸アミド部分はモノメチルアミド,2つのベンゼン環の架橋部はメチレンオキシ基が最も活性が高かった.本化合物はイネいもち病,コムギうどんこ病,キュウリうどんこ病および灰色かび病に高い予防および治療効果を示した.以上の結果より,ストロビルリン系殺菌剤の構造には必ずしも,sp2‐結合炭素またはsp2 様窒素による立体構造が必要ではないことがわかった.

キーワード: α-methoxyphenylacetic acid derivatives, fungicide, strobilurin analogue.

ストロビルリン系化合物のコムギうどんこ病および眼紋病に対する防除効果(英文)

 数種のストロビルリン系化合物およびDMI剤を用い室内における殺菌活性と圃場における防除効果の関係について,コムギうどんこ病およびコムギ眼紋病を対象として比較検討した.圃場におけるコムギうどんこ病に対する防除効果は,室内試験における殺菌活性と一致せず,浸透移行性が高く,ベーパーによる活性が認められたクレソキシムメチル,トリアジメホンおよび (E)-2-[2-(3-トリフルオロメチル-5-クロロピリジン-2-イルオキシメチル)フェニル]-2-メトキシイミノ-N-メチルアセトアミドの3剤が高い防除効果を示し,浸透移行またはベーパーにより新たに展開する葉を保護することが重要な要素と考えられた.一方,眼紋病に対しては高い菌糸伸長阻害活性を示し,浸透移行性の低かった (E)-2-[2-(2,5-ジメチルフェノキシメチル)フェニル]-2-メトキシイミノ-N-メチルアセトアミド(SSF-129)およびプロクロラズが,圃場においても高い防除効果を示し,菌糸伸長阻害活性が高くかつ付着した化合物が長期に散布部位に残ることが重要な要素と考えられた.

キーワード: methoxyiminoacetamide derivatives, fungicide, strobilurin analogue, wheat powdery mildew, wheat eyespot.


短報

1,3,5-Triazine系化合物がNitrosomonas europaeaの無細胞抽出液のアンモニア酸化活性に及ぼす影響(英文)

 本研究では,強い硝酸化成抑制作用を示す1,3,5-triazine系化合物のN. europaea ATCC 25978株の無細胞抽出液に対する影響を硝化作用に伴うと予測される溶存酸素の消費量を酸素電極を用いて測定することにより評価した.また,その結果をすでに報告されている細胞系試験の結果と比較した.細胞の破砕はフレンチプレスを用いて行った.その他にも凍結融解法や超音波破砕法を試みたがN. europaea ATCC 25978株の細胞破砕には適さなかった.N. europaea ATCC 25978株無細胞抽出液の1,3,5-triazine系化合物の硝酸化成抑制効果はN. europaea ATCC 25978株細胞系に対するものと同等以上であった.さらに,その無細胞抽出液中の溶存酸素の減少はアンモニア態窒素を加えた後にすぐ開始した.酸素消費の阻害が認められたことから,1,3,5-triazine系化合物はアンモニアモノオキシゲナーゼを阻害したと考えられる。また,無細胞系において溶存酸素を測定することによって硝酸化成抑制活性試験が可能であり,膜物質による影響を受けやすい化合物についても膜透過を必要としないことからより正確に硝化作用抑制活性を測定できると考えられる。

キーワード: 1,3,5-triazine, Nitrosomonas europaea, ammonia monooxygenase.

植物bound residues研究に関する新しいアプローチ;トリチウム標識された3-phenoxybenzoic acidのヒノキ細胞壁への取り込み(英文)

 農薬の植物二次壁構成成分(セルロース,ヘミセルロース,リグニン)への取り込みにより形成されるbound residuesについては毒性評価の観点から極めて重要な問題である.特にbound residuesの経口摂取による安全性評価の精度を向上させる上で結合形式を念頭にした存在形態に関する研究は不可欠である.本研究ではヒノキ管状要素の二次壁への3-phenoxybenzoic acid (PBacid)の取り込みについてミクロオートラジオグラムを用いて検討した.その結果,PBacidは植物の代表的な二次壁構成成分全てに取り込まれ,かつその取り込み時期は各成分の沈着最盛期と一致した.また,木本植物を材料としオートラジオグラムという手法を用いることで,個々の細胞レベルで化学物質の二次壁への取り込みを可視的に追跡することが可能となった.

キーワード: bound residues, autoradiography, 3-phenoxy-benzoic acid, cypress.

イネいもち病防除薬剤カルプロパミドとその異性体によるメラニン生合成酵素シタロン脱水酵素阻害(英文)

 イネいもち病防除剤カルプロパミドは4種類の異性体,KTU3616A (1R, 3S, 1'R),KTU3616B (1S, 3R, 1'R),KTU3615A (1S, 3R, 1'S),KTU3615B (1R, 3S, 1'S) からなる.我々は既にこれらの中のKTU3616Bが強力にシタロン脱水酵素を阻害する強結合阻害剤(tight-binding inhibitor)であることを示していた.カルプロパミドとその立体異性体のグループにはKTU3616A,KTU3616B,KTU3615A,KTU3615B以外に4種類のジアステレオマーが存在する.今回,KTU3616B以外の7種の異性体について阻害の強さを解析したところ,いずれもtight-binding inhibitorではないことが明らかとなった.これらの内の3種の異性体(KTU3616A,KTU3615A,KTU3615B)は,KTU3616Bに対して100倍程度あるいはそれ以上のKi 値を示した.すなわち強力な阻害作用を示すためには(1S,3R,1'R)の立体配置が必要なことが明らかとなった.

キーワード: rice blast fungus Pyricularia oryzae, scytalone dehydratase, melanin biosynthesis, carpropamid isomer, tight-binding inhibitor.

[3H]エピバチジン結合阻害試験法によるネオニコチノイド殺虫剤のラット脳ニコチン性アセチルコリン受容体に対する親和性の評価(英文)

 α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に選択性を示す[3H]エピバチジンを用いて,最適化した条件下で結合阻害実験を行い,ネオニコチノイド殺虫剤6種のラット脳ニコチン性アセチルコリン受容体に対する親和性を評価した.イミダクロプリドが最も高い親和性を示し(10 μM で 60.6%の阻害),次いでアセトアミプリド,クロチアニジンの順となった.その他の3種にはほとんど親和性が認められなかった.

キーワード: neonicotinoid insecticide, nicotinic acetylcholine receptor, epibatidine, rat brain.

アジドユビキノン‐2の合成および電子伝達活性の評価(英文)

 ミトコンドリアNADH‐ユビキノン酸化還元酵素(複合体‐I)の阻害剤の中には現在,実用的な殺虫・殺ダニ剤として重要な位置を占めるものがいくつかある.複合体‐Iにおけるユビキノン(Q)結合部位の同定は阻害剤の作用機構研究のみならず,本酵素の構造および機能特性を解明するうえで重要であり,そのための手法としてアジドキノンを用いた光親和性標識実験が有効であると考えられる.そこで,我々の開発したユビキノン類縁体の合成法を応用し,2-benzyloxy-Q2 および3-benzyloxy-Q2 から3段階でそれぞれ2-azido-Q2 および3-azido-Q2 を効率よく合成した.牛心筋ミトコンドリア複合体‐Iにおける電子伝達活性を評価したところ,両化合物とも良好な電子受容体として機能することがわかった.

キーワード: azido quinone, ubiquinone, NADH-ubiqui-none oxidoreductase, photoaffinity labeling.




日本農薬学会

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