Vol. 27 No. 4の要旨

報文

アトラジンとリニュロンの吸着に影響する土壌の理化学的性質(英文)

  除草剤の吸着に影響する土壌の理化学的性質を明らかにするため,「吸着割合(AR)」を用いた.ARの計算式は以下のとおりである;AR(%)=(土壌1kgに対する除草剤の吸着量)/(土壌1kgに対する除草剤の初期投入量)×100.除草剤の初期投入量を5水準設けてARを分布(DAR)にまとめ,アトラジンとリニュロンの吸着のしやすさと吸着容量を日本の土壌42点について評価した.アトラジンとリニュロンのDARを多変量解析すると,双方とも土壌を6グループに分類できた.各グループについて理化学的性質の影響を検討した結果,双方とも有機物因子(OM)の寄与が最も高かった.しかし,理化学的性質の影響がアトラジンとリニュロンの場合で異なり,土壌の分類パターンは異なっていた.塩基飽和度が高い土壌では,アトラジンの初期投入量が多くなるにつれてARが急激に減少した.そのような土壌ではアトラジンの吸着容量が少ないことをDARで示せた.

キーワード:  AR, adsorption, atrazine, Kd, linuron, multivariate analysis.

Pseudomonas sp. LE2の殺虫剤リンデンに対する適応機構と流出‐輸送システムの関与(英文)

  リンデンで汚染された環境中でPseudomonas sp. LE2がどのようにして生存するのかを理解するために,本細菌の適応機構と流出‐輸送システムを調べた.適応機構は,リンデン存在下あるいは非存在下での,グルコースを含む培地中で培養した細胞中の全飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸の比の変化として説明できた.In vitroでは,リンデン(10 μM)は細胞膜転移温度を約25°C から22°C に減少させた.リンデン存在下で培養した細胞の膜においては,減流動化効果が観測された.Pseudomonas sp. LE2をリンデン存在下で培養すると,リンデンは単純拡散機構により細胞中に蓄積した.膜輸送阻害剤であるアジ化ナトリウムはリンデンが細胞から流出するのを著しく阻害し,細胞中のリンデンの蓄積をかなり増大させた.これらの結果から,リンデン存在下において生育能力があるPseudomonas sp. LE2は飽和脂肪酸を膜脂質へ取り込み,エネルギー依存性のある流出機構によって細胞からリンデンを排泄することが考えられる.このことにより,この細胞はリンデンの流動化作用に順応できることが示唆された.

キーワード:  insecticide, lindane, Pseudomonas.

新規2-polyfluorophenylbenzazole誘導体の合成と殺ダニ活性(英文)

  新規な2‐フェニルベンゾオキサゾールおよびチアゾール誘導体を合成し,それらのナミハダニに対する殺ダニ活性を調べた.ベンゾアゾール環上の置換基の有無や,オキサゾールおよびチアゾールの違いが活性に及ぼす効果に関しては一定の規則性が認められなかったが,2‐位フェニル基に多くのフッ素原子が導入された化合物は顕著な殺卵活性(LC50: <50 ppm)を有し,また比較的強い殺成虫活性(LC50: 150〜200 ppm)も示すことが判明した.中でも2‐(3‐クロロ‐2,4,5‐トリフルオロフェニル)‐5‐メチルベンゾオキサゾールは殺ダニ剤としての実用化が期待され,その乳剤を処方し評価を行なったところ,普通系統に加えケルセン抵抗性系統のナミハダニに対して,さらにはミカンハダニに対しても有効であることが明らかになった.

キーワード:  benzoxazole, benzothiazole, acaricidal activity, two-spotted spider mite, ovicide.

水田土壌微生物の炭素源利用活性および生理学的群集構造の自然変動―土壌生態系に及ぼす農薬の影響評価に向けて― (英文)

  土壌生態系に及ぼす農薬の影響を評価するための基準を確立する目的で,無農薬・無化学肥料水田および慣行水田における土壌微生物の炭素源利用活性および生理学的群集構造の自然変動をバイオログGNプレートを用いて測定し,約2年間にわたって調査した.土壌微生物の炭素源利用活性は,両土壌において規則的な季節変動を示し,9月ごろ高い活性が認められた.この活性は土壌の温度や酸化還元電位によって直接影響を受けているようであった.生理学的群集構造は,バイオログパターンのクラスター分析により,8〜12月,1〜4月,および5〜8月の3クラスターに分類された.第1番目のクラスターはさらに2土壌間で異なるクラスターを形成したが,第2,第3番目のクラスターでは区別されなかった.両土壌において,同じ時期には同じ微生物群集構造が形成された.低い土壌温度と還元環境が,第2,第3番目のクラスターの形成にそれぞれ関与しているようであった.以上の知見に基づき,水田土壌微生物の炭素源利用活性および生理学的群集構造におよぼす農薬の影響を評価する際の基準を提案した.

キーワード:  paddy soil, Biolog, microbial community structure, carbon substrate utilizing activity, natural fluctuation, risk assessment of pesticide.

N-tert-Butyl-N′-(4-ethylbenzoyl)-3,5-dimethylbenzohydrazideの3,5-dimethylbenzoyl部分を変換した誘導体の合成と殺虫活性(英文)

  20‐ヒドロキシエクダイソンテンプレートとの平面構造の重ね合わせモデルから,エクダイソンアゴニストであるN′-benzoyl-N-tert-butylbenzohydrazide類のひとつRH-5992の3,5-dimethylbenzoyl部分を変換した化合物を合成し,そのハスモンヨトウ3齢幼虫に対する殺虫活性を調べた.3,5-Dimethylbenzoyl 基のベンゼン環を還元したもの,3位のメチル基を変換したものおよび3,4位でヘテロ環を形成させたものをそれぞれ合成した.ベンゼン環の還元では還元が進むにつれて活性が低下消失した.3位をフルオロメチル基やジフルオロメチル基としたものは比較的高い殺虫活性を保持したが,3位のメチル基を酸化したものや,大きな置換基を導入したものの殺虫活性はほとんどなかった.3,5-dimethylbenzoyl 部分を含酸素縮合ヘテロ環へ変換した化合物は,ほとんど殺虫活性を示さなかった.

キーワード:  20-hydroxyecdysone, RH-5992, tebufenozide, ecdysone agonist, insecticidal activity, common cutworm.


短報

ジノテフラン関連化合物の合成とアフリカツメガエル卵母細胞に発現させたSADβ2ハイブリッドニコチン性アセチルコリン受容体に対するアゴニスト作用(英文)

 ジノテフランとそのテトラヒドロフラン環及び非環状アミン部位をそれぞれ非環状エーテル及びイミダゾリジン環に置換した3種の化合物を合成し,アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたSADβ2ハイブリッドニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対するこれらの化合物のアゴニスト活性を測定した.ジノテフランの50%有効濃度EC50(M)の逆対数値pEC50(−log EC50)は 3.65 であり,テトラヒドロフラン環を有する特異的な構造にもかかわらず,nAChRに対してアゴニストとして作用することが分かった.さらに興味あることに,イミダクロプリドがパーシャルアゴニストにあるのに対して,ジノテフランはフルアゴニストであることが分かった.生物等価体を念頭に合成した化合物のなかで,双環性化合物はジノテフランに相当するpEC50 を示したが,単環性化合物のアゴニスト活性はきわめて低かった.

キーワード: neonicotinoid insecticides, dinotefuran, imidacloprid, SADβ2 hybrid receptors, nicotinic acetylcholine receptor, bioisosterism.

畑地圃場における自然降雨による農薬の地表流出(英文)

 宮崎県佐土原町の圃場において,キャベツを定植した灰色低地土の緩斜面圃場(A1: 1.7°, 5 a)で1997年5〜7月の梅雨期に地表水の流出が計13回観察された.この圃場にダイアジノン粒剤の定植時処理(a.i. 300 g/10 a),その55日後にTPN(400 mg/l)とジメトエート(430 mg/l)の混用液(239 l/10 a),その8日後にTPN,ダイアジノン(400 mg/l)とジメトエートの混用液(224 l/10 a)を散布した.表流水によって流出したTPNの96%(流出直後)から47%(終了直前)は,浮遊物質(SS)とともに流出した.一方,ダイアジノンとジメトエートはそれぞれ 33〜44%および1%とほぼ一定の割合でSSとともに流出した.また,同年9〜10月の台風時期にはA1圃場の傾斜を 1.15° に調整した圃場(A2)と黒ボク土の圃場(B, 5 a,傾斜 1.15°)にダイコンを播種して地表水の流出頻度を比較した.その結果,灰色低地土では4回,黒ボク土では台風時の降雨によって2回の地表流出が認められた.灰色低地土のA1圃場では平均降雨強度5 mm/hr前後以上で,A2圃場では10 mm/hr以上の降雨によって,また黒ボク土のB圃場では20 mm/hr以上の降雨によって地表水の流出が生じた.さらに,人工降雨装置を用いた屋内小規模地表流出試験系でも灰色低地土からは黒ボク土よりも容易に表流水が発生した.

キーワード: chlorpropham, single-chain antibody.

抗chlorpropham一本鎖抗体の調製(英文)

 除草剤chlorprophamを特異的に認識する一本鎖抗体(scFv)遺伝子を,抗chlorprophamモノクローナル抗体産生ハイブリドーマK2158から調製した.これを用いて大腸菌で可溶性scFvとして発現させ,間接ELISAを行った結果,明瞭な結合活性を示した.また,競合間接ELISAにおいてchlorprophamおよびその類縁化合物による50%阻害を示す濃度(IC50)を元のモノクローナル抗体と比較した.その結果,このscFvは元のモノクローナル抗体とほぼ同等の結合能,ほぼ同様の認識特異性を示すことを確認した.これによりchlorprophamの検出に利用できる抗体の大量調製が容易になり,また,遺伝子操作による抗体の改変,他生物での発現等が可能となった.

キーワード: runoff, Gray lowland soil, Ando soil, pesticide residue on the soils.




日本農薬学会

http://wwwsoc.pssj2.jp/pssj2/index.html


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