Vol. 28 No. 1の要旨



報 文

雨水に含まれる15種農薬のモニタリング—1999〜2000年の宇都宮市(東日本)の例—
鈴木 聡,大谷寿一,岩崎慎也、伊藤和子,大村裕顕,田中良張
日本農薬学会誌 28, 1-7 (2003)
 宇都宮市の5地点において,15農薬の雨水中の残留量を月ごとに調査した.このうちの1地点では,降雨ごとの残留量を測定した.粒剤として水田に施用される農薬のうち,ヘンリー則定数が小さいシメトリン,プレチラクロール,メフェナセットおよびイプロベンフォスは,検出頻度が特に低かった.一方,ヘンリー則定数が大きいチオベンカルブとエスプロカルブは,散布期間のみならず散布期間以外にも頻度よく検出され,水や土壌表面からの蒸発が長期間続くことが示唆された.1999年7月から2000年6月までの年間降下量(5地点の平均値)は,フェニトロチオン(MEP)546μg/m2,チオベンカルブ196μg/m2,エスプロカルブ109μg/m2,フェノブカルブ(BPMC),ダイアジノン,フサライド約40μg/m2の順であった.これらの地点間における変動係数は,約30%あるいはそれ以下であった.MEP,BPMCおよびフサライドの変動係数が小さい一因として,噴霧や粉散時に農薬を容易に大気中へ移行させやすい水和剤,乳剤,粉剤の散布量の多いことがあげられる.その他の農薬の年間降下量は,約20μg/m2あるいはそれ以下であり,地点間差が大きかった.

アセタミプリドと関連化合物の殺虫活性と神経遮断活性
桐山和久,板津友紀,利部伸三,西村勁一郎
日本農薬学会誌 28, 8-17 (2003)
 アセタミプリドの2個のCH3基を種々のアルキル基などに置換した化合物を合成し,ワモンゴキブリとイエバエに対する殺虫試験を代謝阻害剤の共存・非共存下で注射法により行った.すべての供試化合物の両種の昆虫に対する殺虫活性はアセタアミプリドのものより弱かった.代謝阻害剤であるピペロニルブトキシドは両昆虫に対する殺虫活性を有意に上昇させ,もう一種のNIA 16388を併用することによりさらに増大した.ゴキブリの腹部中枢神経索を用いて神経遮断活性を測定した.両位置への嵩高い置換基の導入はこの活性をも低下させ,その低下の程度は,N-CH3部分を変換した場合より末端のCH3基を変換した場合の方が大きかった.代謝阻害剤を併用した時の殺虫活性は,疎水性の効果を別途考慮することにより,神経遮断活性との間に有意な相関関係があった.

Quinclorac処理されたトウモロコシ幼植物体における1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)合成酵素活性の光誘導

春原由香里,小林真理,松本 宏
日本農薬学会誌 28, 18-23 (2003)

 Quincloracは感受性広葉植物に対してはオーキシン剤と類似の症状・作用を示すが,感受性イネ科植物に対してはオーキシン剤様の作用を示さず,その作用機構の詳細は未だ解明されていない.近年,著者らは,感受性イネ科植物であるトウモロコシの葉片にquincloracを処理した場合,光照射下で特異的にエチレン発生やクロロシスが引き起こされることを見出した.本研究では,quinclorac処理後のトウモロコシ幼植物体の生育阻害作用における光の関与の有無(無傷個体レベルでの検討),エチレンの役割,さらにACC合成酵素活性に及ぼす光の影響について検討した.その結果,幼植物体においても光照射下でquincloracによる新鮮重増加の抑制,葉部におけるクロロフィル含量や水分含量の低下,乾燥重の減少,さらにはエチレン生成の活性化が認められた.また,クロロフィル含量や水分含量の低下はNBD(エチレン作用阻害剤)処理で回復したことから,その阻害作用におけるエチレンの関与が示唆された.さらに,quinclorac処理後のエチレン量の増加には,処理約6時間後から認められるACC合成酵素活性の光誘導が関与している可能性があることが示唆された.

農薬水田圃場モデル(PADDY)による水田から流出した農薬の河川流域における挙動予測
稲生圭哉,石井康雄,小原裕三,北村恭朗
日本農薬学会誌 28, 24-32 (2003)

 水田における農薬濃度予測モデル(PADDY)を基に,水田から流出した農薬の排水路および河川における濃度を予測するモデル(PADDY-Large)を開発した.農業水利の観点から,水田地帯を「耕区」,「農区」,「地区」および「広域」の各レベルに分類し,各レベルにおける農薬濃度を推定した.開発したモデルの検証を行うため,水稲栽培地域において農薬のモニタリング調査を行った.幹線排水路における除草剤の濃度は,5月上旬から検出され,5月中旬に最高濃度に達し,その後徐々に減衰した.開発したモデルは,水稲栽培地域における農薬の使用量,使用時期および環境条件を考慮することにより,幹線排水路における農薬の挙動をほぼ予測することができた.

糸状菌が生産する高分子性昆虫キチナーゼ阻害物質:スクリーニングと性状解析
仁戸田照彦,臼木博一,倉田淳志,神崎 浩
日本農薬学会誌 28, 33-36 (2003)

 昆虫の脱皮に関与するキチナーゼを特異的に阻害する化合物は有効な昆虫発育制御物質となることが期待されている.土壌および植物葉より分離した糸状菌776菌株の静置培養物を我々が確立したハスモンヨトウガ蛹キチナーゼ阻害試験に供した結果,培養ろ液中に強い活性を有する5菌株を見出した.これらの菌株が生産する活性物質はすべて昆虫キチナーゼに対して放線菌キチナーゼよりも10倍以上高い選択性を示した.また,溶媒分画,限外ろ過,熱処理,酵素処理,イオン交換クロマトグラフィーの結果から,これら活性物質はすべて水溶性の高分子化合物であり,既知のキチナーゼ阻害物質とは異なることが明らかとなった.このように,5種の菌株がそれぞれ構造の異なる新規昆虫キチナーゼ阻害物質を生産することが判明したことから,新たな昆虫発育制御物質としての開発が期待される.

4-Thiazolone誘導体の合成,除草活性および植物の分泌系に対する影響
鈴木 稔,森田幸一,雪岡日出男、三木信夫,水谷 章
日本農薬学会誌 28, 37-43 (2003)

 一連の4-チアゾロン誘導体を合成し水田雑草に対する除草活性を調べた結果,5-(2-クロロエチル)-5-メチル-2-(3-メチル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンズオキサジン-4-イル)-4-チアゾロン(CMT)が高活性化合物として見出された.CMTは,水田雑草の中でも特にタイヌビエとホタルイに対し強い除草活性を示し,その作用は特に根端分裂組識近傍において強く現れた.電子顕微鏡観察の結果,CMT処理4時間後のタイヌビエでは,ERとゴルジ体の膨潤,細胞壁からの細胞膜の剥離,細胞膜-細胞壁間への分泌小胞の蓄積などが認められた.これらの結果は,CMTがタイヌビエの細胞内分泌系を撹乱した結果,細胞壁の生合成異常を引き起こしていることを示唆している.

N-フェニルイミド系除草剤フルミオキサジンとそのアニリド酸誘導体の水中での加水分解
片木敏行
日本農薬学会誌 28, 44-50 (2003)
 N-フェニルイミド系除草剤フルミオキサジンのpH 2.5〜9.0における25±1℃での加水分解をカラムスイッチング法を用いたHPLC直接分析により調べた.フルミオキサジンの加水分解は塩基触媒的なイミド環の開環により,半減期4.1日(pH 5.0),16.1時間(pH 7.0),17.5分(pH 9.0)の速さで進行した.生成したアニリド酸は,酸性,中性条件下でアミド結合の開裂によりさらに対応するアニリンとジカルボン酸へ分解するとともに,その一部は閉環反応によりフルミオキサジンを生成した.各反応速度のpH依存性に対する反応解析からアニリド酸の酸触媒的なアミド結合開裂は,非解離型のカルボキシル基が大きく関与する分子内反応であることが示唆された.

水田土壌の微生物群集構造に及ぼす農薬の影響—土壌の湛水が及ぼす影響との比較による評価
井藤和人,生嶋隆博,巣山弘介,山本広基
日本農薬学会誌 28, 51-54 (2003)
 除草剤ザークD51(ダイムロン・ベンスルフロンメチル,ZD)および殺菌剤フジワンモンカット(イソプロチオラン・フルトラニル,MC)粉剤が水田土壌における微生物群集構造に及ぼす影響についてバイオログGNプレートを用いた室内実験により評価した.ZDは常用量の50倍の濃度においてもバイオログプレートの発色にかかわる微生物群集構造を変化させることはなかった.一方,MCは常用量では微生物群集構造に影響を及ぼさなかったが,50倍量では少なくとも4週間にわたりバイオログパターンを明確に変化させた.この時点においてバイオログプレートで測定した炭素源利用活性には影響が認められなかった.MCが微生物群集構造に及ぼす影響の大きさを評価するため,水田土壌の微生物群集構造に大きく影響を及ぼすことがこれまでに明らかにされている土壌の湛水による影響とMC(常用量の10倍濃度)による影響の大きさとを比較した.MCを添加してから1週間後では土壌の湛水による影響の方が大きかったが,4週間後にはMCによる影響の方が大きかった.このように,農薬の影響による土壌微生物群集構造の変化の大きさと自然環境条件下における土壌微生物群集構造の変化の大きさを比較することにより,農薬が土壌微生物群集構造に及ぼす影響の大きさを評価することができると考えられた.

短 報

昆虫培養細胞を用いた脱皮ホルモン様活性物質の受容体結合活性評価法の妥当性
水口智江可,中川好秋,宮川 恒
日本農薬学会誌 28, 55-57 (2003)
 鱗翅目昆虫由来のSf-9細胞,双翅目昆虫由来のKc細胞を超音波破砕して無細胞画分を調製し,脱皮ホルモン様活性物質の受容体結合活性を測定した.供試化合物としては,ステロイド型のエクダイソン類,および分子の疎水性において幅を持たせた種々の非ステロイド型ジベンゾイルヒドラジン類を用いた.化合物の疎水性の大きさにかかわらず,無細胞系で求めた受容体結合活性は,細胞をそのまま用いて評価した化合物の細胞への取り込み活性と,高い相関関係にあることが明らかにされた.以上のことから,昆虫培養細胞をそのまま用いて測定された脱皮ホルモン様活性物質の活性は,受容体結合活性と考えて差し支えないことが示された.

N-(1,3,4-Thiadiazol-2-yl)carboxamide類の合成と殺ダニ活性
志賀 靖,岡田 至,福地俊樹
日本農薬学会誌 28, 58-60 (2003)
 N-(1,3,4-チアジアゾール-2-イル)カルボキサミド類を合成し,ナミハダニ(Tetranychus urticae)に対する殺ダニ活性を試験した.カルボニル基の2-位に臭素原子または塩素原子を有し,チアジアゾール環の5-位にペルフルオロアルキル基を有する化合物が高い殺ダニ活性を示した.中でも2,2-ジブロモ-3,3-ジメチル-N-(5-ペンタフルオロエチル-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)ブタン酸アミドが最も高い殺ダニ活性を示した.

N-(1,3,4-Thiadiazol-2-yl)cyclopropanecarboxamide類の合成と殺ダニ活性
志賀 靖,岡田 至,福地俊樹
日本農薬学会誌 28, 61-63 (2003)
 N-(1,3,4-チアジアゾール-2-イル)シクロプロパンカルボキサミド類を合成し,ナミハダニ(Tetranychus urticae)に対する殺ダニ活性を試験した.シクロプロパン環の1-位にアルキル基を,2-位にハロゲン原子を有し,チアジアゾール環の5-位にペルフルオロアルキル基を有する化合物が高い殺ダニ活性を示した.中でも2,2-ジクロロ-N-(5-ヘプタフルオロプロピル-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)-1-メチルシクロプロパンカルボキサミドが最も高い殺ダニ活性を示した.

シアゾファミドによるキュウリべと病の防除

三谷 滋,蒲池 健,杉本光二、荒木智史,山口朋奈
日本農薬学会誌 28, 64-68 (2003)
 圃場におけるシアゾファミドのキュウリべと病防除効果を調べた.1993年から1997年に実施した予防的散布試験ではシアゾファミド50〜100μg/ml散布は対照のマンゼブ1250μg/mlやクロロサロニル500μg/mlと比較して数倍から20倍以上少ない処理薬量で同等以上の高い防除効果を示した.欧州や米州での処理をシミュレートするために散布水量を通常の散布水量1500〜3000 l/haを1000 l/haに減じた試験を1999年に実施した場合もシアゾファミド80 g a.i./ha(80μg/ml)散布は安定した高い防除効果を示した.また1993年に実施した治療的散布においては発病が十分に認められてからシアゾファミド50μg/mlを散布しても,病気の進展を強く抑制した.以上のことからシアゾファミドはキュウリべと病の防除剤として極めて有用であると思われた.




日本農薬学会

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