Vol. 28 No. 2の要旨



報 文

有機リン系農薬の水‐底質系での比較代謝
小高理香, 菅野輝美, 片木敏行, 瀧本善之
日本農薬学会誌 28, 175-182 (2003)
 水‐底質系における農薬の挙動の解明を目的として3種類の有機リン系農薬を用いてフランスの湖水‐底質系での好気的な代謝試験を行った. トルクロホスメチルおよびブタミホスでは水層から底質層への速やかな移行が起こり, 一方シアノホスの分配はより緩やかであった. これらの化合物は半減期8.8〜24.5日で系内から消失しトルクロホスメチルおよびシアノホスは主にP‐O‐アリール結合およびP‐O‐メチル結合の開裂, シアノ基の加水分解により分解された. 一方ブタミホスでは主要な分解物は検出されず多数の分解物が生成した. トルクロホスメチルおよびブタミホスでは水との共沸によると考えられる揮散が認められた. 水‐底質系からの農薬の消失はその化学構造や物理化学的性質に影響される分配, 代謝分解と揮散により支配されるものと考えられる.

抗生物質がStreptomyces属放線菌の気菌糸形成と植物毒素生産におよぼす効果

夏目雅裕, 松本みゆき, 大城 篤, 小曽根郁子, 橋元 誠, 安部 浩
日本農薬学会誌 28, 183-187 (2003)

 種々の構造と作用機構を有する抗生物質30種類が放線菌Streptomyces scabiesS. acidiscabiesおよびS. albonigerの気菌糸形成におよぼす効果を調べた. タンパク質合成を阻害する多くの抗生物質が, 基生菌糸の生育を抑制する濃度の10%以下の濃度で, 気菌糸形成を阻害した.Spectinomycinはテストしたすべての菌の気菌糸形成を, 基生菌糸の生育を阻害せずに, 選択的に抑制した. Chlortetracyclineはジャガイモそうか病菌S. scabiesS. acidiscabiesの気菌糸形成を阻害したが, S. albonigerには作用を示さなかった. そうか病菌2菌株の植物毒素生産は, spectinomycinとchlortetracyclineによる気菌糸形成の阻害に伴って, 著しく減少した.

Castasterone/Ponasteroneハイブリッド化合物の合成と脱皮ホルモン様活性の評価
渡辺文太, 中川好秋, 宮川 恒
日本農薬学会誌 28, 188-193 (2003)

 Castasterone/ponasteroneハイブリッド化合物 (20R)-2α,-3α,20,22-tetrahydroxy-5α-cholestan-6-oneを, 対応するα‐アルコキシスタンナンと6,6-ethylenedioxy-2α,3α-isopropyl idenedioxy-5α-pregnan-20-oneより新規に合成した. 鱗翅目昆虫由来のSf-9および双翅目昆虫由来のKc細胞への[3H]Ponasteone Aの取り込み阻害を測定した結果, 本ハイブリッド化合物の50%阻害濃度はKcおよびSf-9細胞に対してそれぞれ0.29 μMおよび0.89 μMであった. 本化合物はponasterone Aの1/100〜1/200程度の取り込み阻害活性しか示さなかったものの, ecdysoneの10倍の活性を示した. また, Sf-9細胞に対しては, inokosteroneと同等の阻害活性を示した. 本化合物の脱皮ホルモン様活性を, ニカメイチュウの培養表皮におけるキチン合成誘導系を用いて測定したところ, 50%効果濃度はおよそ10 μMであり, ecdysoneと同程度であった.

ベンズアルデヒドヒドラゾンとセミカルバゾンのカイコ生体アミン受容体に対する作用
Md. Anwar Arfien Khan, 尾添嘉久
日本農薬学会誌 28, 194-199 (2003)

 ベンズアルデヒドのヒドラゾン(HZ)4種とセミカルバゾン(SCZ)6種を合成し, 昆虫の生体アミン受容体と相互作用してアデニル酸シクラーゼ活性を変化させる活性を調べた. 合成した化合物のうち, フェニル基の4位に水酸基を持つ2化合物(HZ-01とSCZ-03)がカイコ5齢幼虫頭部膜画分のcAMPレベルを低下させることがわかった. SCZ-03は, フォルスコリンによるアデニル酸シクラーゼ活性化時に生じるcAMPレベルも濃度依存的に低下させた. また, 生体アミンであるチラミンとドーパミンもcAMPレベルを低下させる活性を持っていた. ドーパミン受容体とチラミン受容体のアンタゴニストはSCZ-03の作用を打ち消した. 以上の結果から, SCZ-03によるcAMPレベル低下はチラミン受容体とドーパミン受容体に対する非選択的アゴニスト作用によるものであると推察される.

水田土壌から単離した微生物によるイプコナゾールの分解
永塚隆由, 伊藤篤史, 千田常明
日本農薬学会誌 28, 200-207 (2003)

 水稲種子消毒用トリアゾール系殺菌剤イプコナゾールの水田土壌中微生物による分解について検討した. 分解菌を集積するため, 水田土壌をイプコナゾール水溶液で41日間還流後, イプコナゾール含有培地で生育可能な微生物を単離した. 単離した微生物を14C‐イプコナゾール0.1 μg/ml含む液体培地で28日間培養後, イプコナゾール分解能を調べた結果, 細菌39株中1株, 放線菌14株中12株, 糸状菌14株中7株が分解能を示した. 特に, 放線菌では8株が, 添加したイプコナゾールを90%以上分解した. イプコナゾール分解能の高かった放線菌2株(Kitasatospora sp. A1, Streptomyces sp. D16)を用いて, イプコナゾールの代謝分解について調べた. A1株は, 液体培地中に含まれる1 μg/mlの14C‐イプコナゾールを3日間で80%分解した. 同じく, D16株は培養2日で約20%, 6日後には99%以上分解した. 主要な1次反応は, イソプロピル基メチンおよびベンジルメチレンの酸化であった. A1株およびD16株は, イソプロピル基メチル部位やシクロペンタン環メチレン部位の酸化能も有していた. 培養後半には, 有機層(酢酸エチル)画分中に高極性の成分が生成するとともに, 水層画分中には, 1,2,4-triazoleが検出された. アゾール系殺菌剤の微生物分解に関する報告は少ないが, 本研究の結果から数種の微生物がトリアゾール系殺菌剤の土壌中分解に関与していると考えられた.

短 報

クロロタロニルで繰り返し処理した土壌中におけるクロロタロニルの分解
鵜飼敏彰, 伊藤武治, 片山新太
日本農薬学会誌 28, 208-211 (2003)
 安城土壌, 長野土壌, 入間土壌を用いたクロロタロニルの連続施用(22か月で9回施用)の室内試験を行い, クロロタロニル施用量, 残留量, 代謝産物および塩素イオンの濃度から, 塩素収支を調べた. 土壌中では, クロロタロニルの塩素は一つしか取れず, 分子に塩素が3ないし4個有する代謝産物が土壌中に蓄積することが示唆された. 3塩素代謝産物としてトリクロロイソフタロニトリル(TrPN)とヒドロキシトリクロロイソフタロニトリル(HO)が検出され, また4塩素代謝産物としてニトリル加水分解代謝産物(AM)の存在が推定された. 代謝産物TrPNとHOを添加するとクロロタロニルの分解速度は低下し, 繰り返し処理土壌での代謝産物蓄積による分解速度低下が示唆された. 一方, 代謝産物AM存在下では低下しなかった.

水田雑草ミズアオイMonochoria korsakowiiにおけるスルホニルウレア系除草剤抵抗性の遺伝様式
汪 光熙, 渡邊寛明, 内野 彰, 周  進, 伊藤一幸
日本農薬学会誌 28, 212-214 (2003)
 北海道長沼町の水田に出現したスルホニルウレア系除草剤(SU剤)に抵抗性を持つミズアオイ2系統(R)と感受性の1系統(S)を用いて, SU剤抵抗性の遺伝学的解析を行った. 感受性生物型の自殖後代はすべて感受性を示すのに対して, 抵抗性生物型の自殖後代および両生物型の正逆交配によるF1個体はすべて抵抗性であった.F1個体の自殖によるF2個体は抵抗性と感受性が3:1に分離し, F1と感受性親の戻し交配個体は1:1に分離した. 即ち, ミズアオイでは, SU剤抵抗性形質は完全優性の1遺伝子によって支配されていることが明らかとなった. ミズアオイは異種ゲノムよりなる異質(二基)四倍体で, その分離現象は二倍体の場合と同じであった. このことから抵抗性雑草が四倍体でかつその抵抗性が完全優性の場合, 同質四倍体は異質四倍体に比べて拡散のスピードが著しく速いと推察される.




日本農薬学会

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