Vol. 28 No. 3の要旨


報 文

トウモロコシ近交系とスーパーオキシド ジスムターゼ変異体におけるスーパーオキシド ジスムターゼとカタラーゼの応答に対するノルフルラゾンの影響
Sunyo JUNG
日本農薬学会誌 28, 281-286 (2003)

 トウモロコシ(Zea mays)近交系(W64A)の葉と中胚軸における,除草剤ノルフル ラゾン(NF)によって誘導された酸化的ストレスに対するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)とカタラーゼ(CAT)の応答を,Sod1に突然変異を持つSOD突然変異株(A130-1)のものと比較し た.NF処理によるSODとCATの活性変動には,W64AとA130-1の間で差はなかった.Sod1Cat1の相対的な転写レベルは,NFに反応してこれら2種類のトウモロコシ 系統の葉および中胚軸において著しく上昇した.葉と中胚軸においては,Sod3の転写産物はW64Aでは33 μMのNF処理でのみ増加し,それに対しA130-1では,33 μMと100 μMのNF濃度で上昇した.Sod4Aの転写産物はNF処理したA130-1の中胚軸においてのみ上昇し,W64AにおけるSod4Aの全転写レベルは A130-1の場合より著しく高かった.Cat2の転写産物はNF 処理したW64Aの葉では上昇したが,A130-1の葉では顕著に低下した.中胚軸では,NF処理によってCat2の転写産物がA130-1においてのみ 増加した.Sod1に変異を持つトウモロコシは,NFによって誘導 された酸化的ストレスに対して,近交系であるW64Aとは異なったSodCatの転写誘導を示すことがわかった.(文責:編集事務局)

トウモロコシ変異体の胚盤におけるノル フルラゾン誘導性酸化ストレスでは特定のカタ ラーゼアイソザイムの発現レベルがカタラーゼとスーパーオキシドジスムターゼを変化させる
Sunyo JUNG,Yong In KUK
日本農薬学会誌 28, 287-292 (2003)

 トウモロコシ(Zea mays)の標準カタラーゼ(CAT)系統(W64A)と種々の CAT変異体の,吸水5日後の胚盤におけるノルフルラゾン(NF)誘導性の光酸化ストレスに対する,抗酸化作用に及ぼすCATレベルの影響を調べた. W64AとCAT-3全欠失変異体(WI10D),CAT-2全欠失変異体(WA10C),CAT-2/CAT-3二重全欠失変異体(WDN10),そし てCAT-2高活性変異体(R6-67)について,1〜10 μMのNFで処理した時のCAT活性と全SOD活性およびSODアイソザイムのパターンを比較した.また,この時のCat1,Cat2,Cat3遺伝子とSod1,Sod2,Sod3,Sod4,Sod4A遺伝子の転写産物レベル についても調べた.これらの結果からトウモロコシ変異体では,特定のCATアイソザイムのレベルがCATやSODレベルに影響を与えることが示された. (文責:編集事務局)

N‐置 換phenyl isothiazolone誘導体の合成と植物毒性
宮本美子,池田佑美,若林 攻
日本農薬学会誌 28, 293-300 (2003)

 3(2H) -oxo-N-置換phenyl-4,5,6,7- tetrahydro-1,2-benzisothiazole誘導体は2-chlorocyclohexene-1-carboxylic acidから4段階反応により合成した.次に,isothiazolone環上のイオウ原子の酸化は3-CPBAを用いて,3-oxo-4,5,6,7- tetrahydro-1,2-benzisothiazole-1-oxideおよび3-oxo-4, 5, 6, 7-tetrahydro-1, 2-benzisothiazole-1,1-dioxideを合成した.このようにして得られた新規化合物の植物毒性活性は緑藻類 Scenedesmus acutusを用い,protox阻害活性はトウモロコシ由来のetioplastから抽出したprotoxを用いて検定した.その結果,3(2H)-oxo-N-置換phenyl-4,5,6,7-tetrahydro-1,2- benzisothiazole類の中ではphenyl置換基が4-chloro-3-isopropoxycarbonylの時に強い活性を示した.ま た,isothiazolone-monooxideとdioxideを比較すると,3-oxo-4,5,6,7-tetrahydro-1,2- benzisothiazole-1,1-dioxideは3-oxo-4,5,6,7-tetrahydro-1,2-benzisothiazole -1-oxideより活性が強く,特に3(2H)-oxo-2- [4-chloro-3-(isoporpoxycarbonyl)phenyl]-4,5,6,7-tetrahydro-1,2- benzisothiazole-1,1-dioxideは最も強いprotox阻害効果を示し,pl50は7.08であった.

殺虫剤マラチオンに特異的なモノクロー ナル抗体と遺伝子組換え抗体の調製と特性
西 甲介,今宿芳郎,中田昌伸,大出勝也,三宅司郎,森宗孝介,川田充康,大川秀郎
日本農薬学会誌 28, 301-309 (2003)

 殺虫剤マラチオンのP-S-C結合をP-NH-C結合に変えたハプテンを用いてマウ スを免疫することにより,2種のモノクローナル抗体MLT2-23およびMLT40-4を単離し,それらを用いた直接競合阻害ELISA法を開発した. MLT2-23およびMLT40-4はマラチオンに特異的で,これらを用いたELISAはそれぞれ5.3〜75 ng/ml,7.0〜190 ng/mlのマラチオンを測定することができた.両抗体の抗体産生細胞からmRNAを各々抽出しcDNAライブラリーを構築して,両抗体の重鎖および軽鎖 をコードするcDNAクローンを単離した.各々の抗体の可変領域に関してVH‐リンカー‐VLの順に並んだHL型,VL‐リンカー‐VHの順に並んだLH 型の2種の単鎖可変領域抗体(scFv)遺伝子を構築し,ファージミドpCANTAB5Eに挿入し,大腸菌に発現させた.MLT2-23の間接競合 ELISAにおけるマラチオンに対するIC50値は60 ng/mlであったのに対し,MLT2-23/HL scFvおよびMLT2-23/LH scFvのIC50値はそれぞれ81 ng/ml,72 ng/mlであった.一方,MLT40-4の間接競合ELISAにおけるマラチオンに対するIC50値は75 ng/mlであったのに対し,MLT40-4/LH scFvのIC50値は150 ng/mlであり,MLT40-4/HL scFvはマラチオンとほとんど反応しなかった.すなわち,本抗体では可変領域の結合順序を入れ替えることによってscFvの抗原との親和性や抗原と抗体 との反応性が著しく変化することが判明した.

短 報


N-(1,3,4 -Thiadiazol-2-yl)pyrazole-5-carboxamide類およびN-(1,3,4-thiadiazol-2-yl)thiazole-5- carboxamide類の合成と殺ダニ活性
志賀 靖,岡田 至,福地俊樹
日本農薬学会誌 28, 310-312 (2003)

 N‐(1,3,4‐ チアジアゾール‐2‐イル)ピラゾール‐5‐カルボキサミド類およびN‐(1,3,4‐ チアジアゾール‐2‐イル)チアゾール‐5‐カルボキサミド類を合成し,ナミハダニ(Tetranychus urticae)に対する殺ダニ活性を試験した.N‐(1,3,4‐ チアジアゾール‐2‐イル)ピラゾール‐5‐カルボキサミド類では,ピラゾール環の1‐位にメチル基を,3‐位にイソブチル,sec‐ブチル基や tert‐ブチル基等のかさ高い置換基を,チアジアゾール環の5‐位にペルフルオロアルキル基を有する化合物が高い殺ダニ活性を示した.一方,N‐(1,3,4‐チアジアゾール‐2‐イル)チアゾール‐5‐カルボキサミ ド類では,チアゾール環の2‐位にtert‐ブチル基を,4‐位にメチル基を,チアジアゾール環の5‐位にペルフルオロアルキル基を有する化合物が高い殺 ダニ活性を示した.

N-Acyl-N-(4-aryloxybenzyl)pyrazole-5- carboxamide類の殺虫活性
志賀 靖,岡田 至,池田芳哉,滝澤英二,福地俊樹
日本農薬学会誌 28, 313-314 (2003)

 N-Acyl-N-(4-aryloxybenzyl)pyrazole-5- carboxamide類の,鱗翅目害虫であるハスモンヨトウ(Spodoptera lituraに対する殺虫活性を試験した.中でも,N-acetyl-N-[4-(4-cyanophenoxy)benzyl]-3-ethyl -1-methylpyrazole-5-carboxamide,N-acetyl-3-ethyl-1-methyl-N-[4-[4-(methylthio)phenoxy]benzyl] pyrazole-5-carboxamideおよびN-[4- (4-cyanophenoxy)benzyl]-3-ethyl-N-isobutyryl -1-methylpyrazole-5-carboxamideが最も高い殺虫活性を示した.

ラット末梢神経系のテトロドトキシン抵 抗性電位依存性ナトリウムチャネルに対するオ キサジアジン系殺虫剤インドキサカルブ鏡像異性体の抑制作用
鶴淵裕治,加賀谷 康,河野義明
日本農薬学会誌 28, 315-317 (2003)

 ラットの背根神経節(DRG)ニューロンに存在するテトロドトキシン抵抗性電位依存 性ナトリウムチャネルに対するインドキサカルブの2種光学異性体の作用を,電気生理学的手法であるホールセルパッチクランプ法によって比較した.両光学異 性体はラットDRGニューロンにおけるテトロドトキシン抵抗性電位依存性ナトリウム電流を経時的かつ濃度依存的に抑制した.各異性体溶液処理25分後の 50%電流抑制濃度は,S体で4.3 μM,R体で15.2 μMと算出され,S体の抑制作用がR体より約3.5倍高かった.

アセチルコリンエステラーゼ阻害に基づ いた検定法による果実と野菜におけるカーバ メート系殺虫剤の検出
Jae Han SHIM,Chang Joo LEE,Mi Ra KIM,In Seon KIMLi Tai JIN,Seung-Chan PARK
日本農薬学会誌 28, 318-321 (2003)

 農作物に含まれるカーバメート系殺虫剤によるアセチルコリンエステラーゼ (AChE)阻害を指標とした,同系統殺虫剤の定量方法について検討した.ミツバチ頭部からアセチルコリンエステラーゼを粗抽出し,殺虫剤の定量に用い た.AChE阻害効果の濃度依存性から検量線を作成した.検査したカーバメート系殺虫剤のうち,bendiocarbやcarbofuranについて最も 低いID50値と検出限界濃度が認められ,それぞれ約0.1 ppmと0.02 ppmであった.農作物に添加したカーバメート系殺虫剤の回収率は約80〜90%であった.薬剤処理したシソ葉から異なった大きさのディスクを調製し,そ れを用いた時の検定からも本方法の定量性が示唆された.本方法は農作物中に含まれるAChE阻害性農薬の迅速な定量に有効であることが示唆された.(文 責:編集事務局)




日本農薬学会

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