日本農薬学会誌 |
殺菌剤の作用機構に関する最近の話題
山口 勇,藤村 真日本農薬学会誌 30, 67-75 (2005)
我が国のように温暖多湿な地域では植物病害による被害が甚大で,それを反映して多くの優れた殺菌剤が開発されているが,特異性の高い薬剤に対する耐性菌出現が問題である.最近の薬剤開発は厳しい安全性評価の下でなされているが,非対象生物に対する悪影響に関する社会的懸念はますます高まっている.したがって本質的に対象有害微生物に特異的で,耐性菌の出にくいと考えられる,いわゆる非殺菌性の病害制御剤が注目されている.イネいもち病防除剤のメラニン合成阻害剤(MBIs)と宿主の病害抵抗性を誘導するプラントアクティベーターがその例であるが,最近,新規なメラニン合成阻害剤であるMBI-Dに予想外の抵抗性菌出現が報告されている.また,糸状菌ミトコンドリアの電子伝達系にある複合体IIIに含まれるチトクロームbのユビキノン結合サイトは殺菌剤の新規なターゲットで,メトキシアクリレート殺菌剤はそのQoサイトに結合して電子伝達を阻害する.近年,Qo阻害剤耐性菌の出現が問題化しているが,これは主にチトクロームb遺伝子の点変異(G143A)によるものである.また,多くの植物病害に使われているジカルボキシイミド系殺菌剤の作用機構は長い間,不明であったが,最近,ヒスチジンキナーゼを含む浸透圧信号伝達系に作用することが明らかになってきた.灰色かび病菌などの耐性変異はヒスチジンキナーゼ遺伝子にあることも示されている.今後は,作用機構に基づく殺菌剤耐性管理対策が世界的にも登録要件になると思われる.
日本農薬学会
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