Vol. 24 No. 4の要旨

報文

ベンスルフロンメチル,アジムスルフロンの田面水中消長試験のコンピューターモデルによる検証(英文)

 水稲用除草剤ベンスルフロンメチル及びアジムスルフロンの田面水中濃度の消長を実圃場を用いてモニターした.その実験結果についてUS EPAのコンピューターモデルEXAMS2を用いて検証を試みた.
 その結果,EXAMS2の基本的な標準シナリオを用いた場合と圃場試験の結果にはその濃度消長にかなり大きな差が見られた.自然水中の光分解による活性酸化物濃度がこの場合は関与していることが予測された.コンピューターモデルを用いた環境濃度予測が世界的に使われる傾向にあるが,圃場試験による検証が必須であることを強く示唆している.

ツマグロヨコバイにおけるN-メチルカーバメートとモノクロトホスとの負相関交差抵抗性(英文)

 感受性系統および,有機リン剤・カーバメート剤抵抗性系統を用い負相関交差抵抗性を示す薬剤の組み合わせのスクリーニングの結果,複数のN-メチルカーバメート剤とモノクロトホスとの間に負相関交差抵抗性のあることが明らかとなった.しかし,これらの薬剤のLD50値の抵抗性比とAChEの感受性比を比較したところ,LD50値の抵抗性比では,負相関交差抵抗性の関係は認められなかった.そこで,感受性系統に抵抗性系統の遺伝子を導入したMC-R系統を育成し,殺虫試験をおこなうとともにAChEの感受性比を検討したところ,両系統間において,いずれも明瞭な負相関の関係が認められた.さらに感受性,抵抗性およびMC-R系統のアリエステラーゼ(AliE)活性を調べたところ,抵抗性系統のAliE活性は感受性系統に比べ19倍高かったが,MC-R系統のAliE活性は低く感受性系統と違いが認められなかった.以上の結果より,感受性および抵抗性系統においてN‐メチルカーバメートとモノクロトホスのLD50値で負相関交差抵抗性が認められなかった要因は,抵抗性系統の高いAliE活性によりモノクロトホスが解毒分解されるためと考えられた.

カルプロパミド前処理イネにおけるイネいもち病菌感染によるファイトアレキシン合成の増強(英文)

 メラニン生合成阻害剤(MBI)であるカルプロパミド(CRP)を処理したイネ葉にいもち病菌を接種すると,イネのファイトアレキシン(PA)であるモミラクトンAとサクラネチンが多量に蓄積した.CRPまたはその主成分であるisomer A(1R,3S),B(1S,3R)をそれぞれ単独で処理しただけではPAの蓄積は認められなかったが,いもち病菌を接種することにより速やかにかつ多量にイネ葉において生成,蓄積することが明らかとなった.この現象は抵抗性誘導剤WL28325処理イネ葉においても同様に認められ,その処理濃度,防除効果及びPA蓄積量の相互相関性を解析した結果,isomer Aが最も類似したパターンを示した.MBI活性がisomer Bに劣るisomer Aの主たる作用機構はいもち病菌感染によるPAの蓄積増強作用であると推定され,CRPが示すいもち病防除効果はisomer AのPA誘導蓄積増強と,isomer BのMBIによる相互作用により得られていることが示唆された.

キンクロラック処理トウモロコシ葉片におけるエチレン生成量に及ぼす温度の影響(英文)

 著者らは,キンクロラック処理後のトウモロコシ葉片でのエチレン生成は,他のオーキシン剤とは異なり,光照射により著しく促進されることを明らかにしてきたが,本研究では,さらにキンクロラック処理によるエチレン生成の詳細を明らかにする目的で,本剤処理後のエチレン生成量に及ぼす温度の影響について検討した.その結果,薬剤処理後の温度だけでなく薬剤処理前の生育温度もキンクロラックによるエチレン生成量に大きく影響することが示された.さらに,薬剤処理後に温度を低下(30℃から20℃)させた場合,キンクロラックによるエチレン生成は積算温度に依存した量的な減少とクロロシスの抑制が見られた.また,薬剤処理中に温度を上昇(20℃から30℃)させた場合には,積算温度から推定される値以上の急激なエチレン量の増大が起こった.このことから急激な温度上昇は,キンクロラックによって誘導されるエチレン生合成系酵素量自体の増加を引き起こす可能性が示唆された.

Serratia marcescensの生産するプロディギオシンがハスモンヨトウに対するBacillus thuringiensis Cry1C内毒素の殺虫活性を増大させる(英文)

 Serratia marcescensの培養上清に存在し,Bacillus thuringiensisのδ-endotoxin(Cry1C)のハスモンヨトウに対する殺虫活性を増大する活性物質を明らかにする目的で,キチナーゼ(A, B及びC1),キチン結合蛋白(CBP)及び赤色色素プロディギオシン(prodigiosin)について協力作用の有無を調べた.その結果検定物質のなかではプロディギオシンのみに致死活性と幼虫発育阻害活性において顕著な協力作用が認められた.S. marcescens培養上清と精製プロディキオシンの協力作用性は類似しており,さらに467 nmの吸光度から推定した上清中のプロディギオシンの含有量で協力効果を十分説明できることから上清中の協力作用はプロディキオシンによるものと推論された.

水田土壤中における窒素循環に関わる土壤微生物活性の自然変動:土壤生態系に及ぼす農薬の影響評価に向けて(英文)

 土壤生態系に及ぼす農薬の影響は,環境要因による微生物の数や活性の変動幅との比較の上で評価する必要がある.このような観点から,島根県松江市近郊にある近接した肥培管理の異なる2水田を対象に,1997年5月から1998年12月までの20か月間にわたって,土壌中の窒素循環に関わる微生物活性の自然変動を調査した.2作期を通じた硝化活性,アンモニア化成活性,プロテアーゼ活性およびアンモニア酸化細菌数の変動係数(CV)は,それぞれ16〜20,39〜53,31〜62および88〜174%であった.これらの値は肥培管理の違いにかかわらず同程度であり,室内試験や短期の圃場試験の結果から土壌微生物に対する農薬の影響を評価する際に参照されるべきであろう.

短報

N-(トリロキシベンジル)ピラゾールカルボキサミド誘導体の合成と殺虫活性(英文)

 25種のN-(トリロキシベンジル)ピラゾールカルボキサミド誘導体(IV)を合成し,殺虫活性を試験した.中でも4-クロロ-3-エチル-1-メチル-N-[4-(p-トリロキシベンジル)]ピラゾール-5-カルボキサミド(OMI-88,トルフェンピラド)が,半翅目害虫であるモモアカアブラムシのみならず鱗翅目害虫であるコナガに対しても最も高い活性を示した.OMI-88は,低毒性で高殺虫活性を有する化合物であることを見いだし,現在殺虫剤として開発中である.

フェニルプロパノイドならびにネオリグナンの配糖体:マツ内樹皮に含まれるマツノマダラカミキリ産卵刺激物質(英文)

 アカマツ内樹皮の含水アセトン抽出物からエーテル可溶部を除き,残渣のエタノール可溶部をSephadex LH-20カラムで画分I,II及びIIIに分画した.画分IIとIIIに含まれるマツノマダラカミキリ産卵刺激物質は既に同定されているので,画分IをAmberlite CG-50カラムで画分I-1,I-2,I-3及びI-4に分画し,画分I-2から産卵刺激物質として,フェニルプロパノイド配糖体dihydroconiferyl alcohol-9-O-β-D-glucopyranoside(1)と4種類のネオリグナン配糖体,即ち,cedrusin-4'-O-β-D-glucopyranoside(2),cedrusin-4'-O
-L-rhamnopyranoside(3),7-O-methyl cedrusin-4'-O-α-L-rhamnopyranoside(4)及び1-(4'-hydroxy-3'-methoxyphenyl)-2-[4"-(3-hydroxypropyl)-2"-hydroxyphenoxy]-1,3-propanediol-4'-O-β-D-xylopyranoside(5)を単離・同定した.画分I-1と画分IIIの存在下に2種以上の配糖体の混合物は産卵を刺激したが,両画分が存在しても個々の配糖体は産卵を刺激しなかった.

技術情報

ペラルゴン酸の毒性試験の概要

ペラルゴン酸の安全性評価の為,各種毒性試験を行った.その結果,急性毒性は低く,普通物に相当した.眼一次刺激では製剤が眼に刺激性を有したが,10倍希釈製剤では刺激性は軽度で
あった.皮膚に対する一次刺激性は中程度であった.皮膚感作性は認められなかった.変異原性は,DNA修復試験が陽性であったが,復帰変異試験,染色体異常試験,不定期DNA合成試験の結果はすべて陰性であった.

オレイン酸カリウムの毒性試験の概要

オレイン酸カリウムの安全性評価のため,各種毒性試験を行った.その結果,急性毒性は低く,普通物に相当した.眼一次刺激試験および皮膚一次刺激試験では中程度の刺激性を有していた.皮膚感作性は認められず,変異原性もDNA修復試験,復帰変異試験,染色体異常試験のすべての試験について陰性であった.


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日本農薬学会

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