除草剤ペントキサゾン(3-(4-chloro-5-cyclopentyloxy-2-fluorophenyl)-5-isopropylidene-1,3-oxazolidine-2,4-dione)の土壌微生物による代謝分解について考察するため,4種の日本産耕地土壌(山形,牛久,岩手,立川)を微生物源として接種した液体培地中に14C標識体を添加し,その分解物を調査した.いずれの土壌を接種した場合も分解物の消長はほぼ同様の傾向を示した.すなわち添加したペントキサゾンは急速に減少し,オキサゾリジン環部位の加水分解物であるA-0505が生成し,最大で施用量の57%に達した.A-0505の減少に伴い,その還元体であるA-1374が最大で71%まで増加した.このほか,アニリン誘導体であるA-1168,もう1種の加水分解物であるペントキサゾン水和体および1種の未同定化合物が最大で10%を超えて検出された.以上のことから,ペントキサゾンは土壌中におそらく普遍的に存在する微生物群により容易に分解されうることがわかった.これらの水/土壌環境中で増殖可能な微生物群は,ペントキサゾンを他の微生物群によって利用されやすい形態に変換することにより,代謝分解を促進することに重要な役割を果たしていることが推察された.
* 除草剤ペントキサゾンの微生物分解(第1報).
水田圃場の作土層と田面水中におけるプレチラクロールとメフェナセットの消失パターンと速度:3年間の圃場実験
1995年〜97年までの3年間,農環研水田圃場の田面水中と作土層中(0〜1,1〜5,5〜10cm)での除草剤プレチラクロール(PTC)とメフェナセット(MF)の消失パターンと速度を5月中旬〜7月初旬まで調査した.また,各薬剤の圃場中での半減期を一次反応速度式(SFOK)と2段階の一次反応速度式(BFOK)を用いて計算した.田面水と作土層中でのPTCとMFの消失パターンと速度はかなり異なっていた.この原因としては,PTCの水溶解度がMFに比べ10倍以上高いこととPTCの土壌中(特に還元層)での分解速度がMFに比べ速いことが考えられる.最上層0〜1cm(酸化層)では,PTCの消失速度は最初の3週間は速かったが,その後は速度が減速した.しかし,MFの場合,調査期間中の消失速度はほぼ一定であった.最上層でのPTCとMFの半減期はそれぞれ7〜10日,9〜11日であった.還元層である中・下層(1〜5,5〜10cm)では,最上層のPTCがリーチングし,散布後約2週目に最高濃度が検出され,その後急速に消失した.一方,MFでは,中・下層へのリーチングはPTCほど顕著ではなく,一定速度で緩やかに消失した.田面水中では,MF濃度は散布2〜3日後にピークに達した後急速に減少し,4週目以降消失速度は減速した.一方,PTC濃度は,散布1日後にピークに達しその後一定速度で減少した.田面水中でのPTCとMFの半減期はそれぞれ3.0〜3.6日,3.3〜4.1日であった.土壌中での薬剤消失速度を求める場合,消失速度が一定であるMFでは,SFOKを用いて満足な結果を得れるが,消失速度が変化するPTCでは,BFOKを用いた方がより高精度の値を得ること出来る.両薬剤の消失パターンと速度の調査年による違いは殆ど認められなかった.
2-フッ素置換メチル-4-ベンジルアミノ-6-メチル-1,3,5-トリアジン系化合物の光合成電子伝達(PET)阻害活性及び除草活性
高いPET阻害活性を有する2-ベンジルアミノ-4-メチル-6-トリフルオロメチル-1,3,5-トリアジン系化合物において,フッ素原子の置換効果を調べるために,トリフルオロメチル基をジフルオロメチル基,フルオロメチル基,メチル基に変換した化合物を合成し,それら化合物のPET阻害活性を測定した.その結果,PET阻害活性は,フッ素原子数の増加とともに増大することが分かり,全体的には活性の強さはCF3-≧CHF2->CH2F->CH3- 誘導体の順であった.高いPET阻害活性を附与させるためにはトリアジン環の置換基の1つとして2個以上のフッ素原子で置換されたメチル基すなわち,トリフルオロメチル基またはジフルオロメチル基を導入する必要性が確認された.また,ベンジルアミノ基のベンゼン環4位にハロゲン原子を導入した化合物は無置換の化合物よりも高いPET阻害活性を示した.これらの化合物の除草活性を土壌,茎葉,湛水処理試験によって評価したところ,PET阻害活性の高い化合物が強い除草活性を示した.例えば,2-(4-ブロモベンジルアミノ)-4-ジフルオロメチル-6-メチル-1,3,5-トリアジンは,非常に強いPET阻害活性及び除草活性を示した.
1-アリールアルキル-3-ピロリン-2-オン誘導体の合成と除草活性
既存の水田用除草剤とは全く化学構造が異なるピロリノン誘導体に着目し,構造変換や置換基変換について種々検討した結果,1-[[1-(ベンゾチアゾール 2-イル)-1-メチル]エチル]-4-メチル-3-フェニル-3-ピロリノン-2-オン(MI‐2826)が,水田における強害雑草であるタイヌビエに対して特に優れた除草活性を示すことが判った.また,アゼナ,キカシグサ,ミゾハコベなどの水田の1年生雑草に対しても効果が高いことが判明した.コナギ,ウリカワ,ミズガヤツリに対しては,やや弱い除草効果を示した.特に,この化合物は,タイヌビエに対する除草効果が高いだけでなく,効果が長期的に維持され,従来の除草剤と比較し,際立った特徴を持つことが明らかとなった.
ユリ培養細胞におけるティアステロンとそのエステル体の相互変換
ユリ培養細胞におけるティアステロン(TE)とTE-3-ミリステートの代謝変換を調べた.TEは,すでにユリ花粉から同定されている2つのTEエステル,TE-3-ミリステートとTE-3-ラウレートに代謝された.一方,TE-3-ミリステートはTEに代謝され,TEとTE-3-ミリステートの相互変換が確認された.また,ユリ花粉の成熟過程におけるTEとTE‐3‐ミリステートの内性量の変動を調べた結果,ブラシノライドの生合成過程における同様の相互変換が示唆された.これらの結果から,TEのエステル体はブラシノライド生合成においてTEの貯蔵形態として機能していることが示唆された.
メトミノストロビン含有時間制御型溶出性粒剤の設計と薬物溶出性
一定のラグタイムの後,有効成分が溶出し始める時間制御型溶出性粒剤(TCRG)を開発した.この論文において,TCRGは,モデル薬物であるメトミノストロビンおよび水によって膨潤する膨潤剤(アクリル酸デンプン)を配合した原粒剤に二層の疎水性高分子(エチルセルロース,塩化ビニリデン)を被覆して調製した.TCRGのラグタイムおよび溶出開始後の溶出速度は,塩化ビニリデンの被覆量とアクリル酸デンプンの配合量によって,任意に制御することが可能であった.TCRGからのメトミノストロビンの溶出機構は,粒剤中に浸透した水が膨潤剤を膨潤させ,その膨潤力によって膜が破裂し,メトミノストロビンが溶出し始めると考えられた.
* 放出制御された育苗箱施用粒剤に関する研究(第3報)
メトミノストロビン含有時間制御型溶出性粒剤からの薬物溶出挙動におよぼす賦形剤の影響
モデル薬物であるメトミノストロビン,膨潤剤およびタルクを含む粒剤に疎水性高分子を被覆した時間制御型溶出性粒剤(TCRG)の賦形剤であるタルクの溶出挙動におよぼす影響を調べた.TCRGからのメトミノストロビンの溶出のラグタイムは,粒剤中の賦形剤であるタルクの量を増加するに応じて長くなった.この理由は,1) 疎水性高分子皮膜の薄い箇所がなくなったこと,2) 膨潤剤を含有する粒剤中の粉成分の浸透濡れが小さくなったことにより,TCRG中の水の取り込み速度が低下し,皮膜の崩壊時間すなわちラグタイムが長くなったと考えられた.
放出制御された育苗箱施用粒剤に関する検討(第4報)
イネ芽生えに対して根の成長促進活性を有する水素化またはジクロロ化されたN-フタロイル-L-スレオニン類およびそれらの脱水フタルイミド類
新規植物成長調節物質,水素化とジクロロ化N-フタロイル-L-スレオニン類(P-Thrs)およびそれらの脱水フタルイミド類(2-フタルイミド-2-ブテン酸,P-BTEAs)は容易に合成され,イネ芽生えに対して強い根の成長促進活性を示した.P-Thr類の成長促進活性は1×10-4Mで対照区の1.6〜2.2倍であり,一方脱水P-BTEA類の成長促進活性はP-Thrより少し強く対照区の2.1〜2.6倍であった.また,フタロイル基のベンゼン環の水素化は根の成長促進活性を減少させた.さらに興味あることに水素化或いはジクロロ化N-フタロイル-L-スレオニン類(P-Thrs)及びそれらの脱水フタルイミド類は,レタス,白菜やブラック・マッペに対しては有意な根の成長促進活性を示さなかった.これらの結果は,P-ThrやP-BTEA類はイネ芽生えに対して特異的に根の成長促進活性を有することを示した.
さきに報告した1995年の人工降雨によるランオフ試験を実施した同じ傾斜圃場(6〜6.5°)において,1996年7月の梅雨の合間に栽培キャベツ(7a)にTPN,ダイアジノン,ジメトエートの3剤混用1000倍液を167l/10a散布して,翌日の降雨で0.6lの表流水を採取した.また,9月には栽培ダイコン(8.4a)に同じ3剤混用液を101l/10a散布して,2日後の台風通過よる降雨で290l(10:00〜12:30),530l(12:30〜13:00)及び600l(13:00〜15:00)の計1420lの表流水を採取した.表流水の平均流出水量/m2/hrは,0.01l/m2/hr(7月)及び0.12l/m2/hr(9月)と少なかったが,台風通過時の最大値(1.26l/m2/hr)は既報の人工降雨試験による表流水量/m2/hrに匹敵した.一方,表流水中の薬剤濃度は0.001ppmから最大でも0.018ppmであり,前年の人工降雨での場合の1/30から1/300の値であった.7月及び9月の薬剤散布後の表層土壌中(深さ5cm)の各薬剤はランオフの後では,TPNでは17%と84%が,ダイアジノンでは19%と78%が,ジメトエートでは90%と92%が,それぞれ表層より消失したと推定された.これらの結果は土壌の種類や状態,天候及び地理的な相違によって異なると考えられるが,少なくとも本圃場では自然降雨によるランオフは台風通過時などの強い降雨でないと発生が困難であり,また発生した表流水中の薬剤濃度は人工降雨試験の結果と比べて極めて低濃度であった.
種子の発芽及び幼植物の枯死率によるオキシフルオルフェン抵抗性イネ系統の簡便な評価方法
ジフェニルエーテル系(DPEs)除草剤に対する植物の反応を評価する時に用いる手法の葉切片法は,植物をある葉期まで生育させることや植物を切って行うことなどの短所がある.そこで,DPEs系除草剤,オキシフルオルフェンの遺伝子組み換えイネの抵抗性程度を評価する手法の確立を目的として発芽率及び枯死率の測定を行った.この評価法はオキシフルオルフェンに対する抵抗性程度がより早い時期の出芽時に,かつ植物を傷つけずに判断できる利点を持つ.更に,この手法はオキシフルオルフェンの作用を評価する際のパラメーターである脂質過酸化作用の反応と高い相関性が認められ簡易・迅速な評価法として有効であると判断された.
土壌微生物相に及ぼす土壌くん蒸剤の影響およびくん蒸後の土壌に接種されたFusarium oxysporumの増殖
土壌くん蒸剤クロルピクリン(trichloronitromethane)およびカーバム(ammonium N-methyldithiocarbamate)が土壌微生物相(全細菌数,耐熱性胞子数,グラム陰性細菌数,硝化菌数,放線菌数および糸状菌数)に及ぼす影響を調査した.クロルピクリンを50μl/kg乾土で処理すると耐熱性胞子数以外の微生物数は処理後3週間経過しても回復しなかったのに対して,クロルピクリンの5μl/kg乾土およびカーバムの5および50μl/kg乾土処理では処理後1週間でほとんどの微生物が回復した.また,くん蒸(25μl/kg乾土)後の土壌に接種したFusarium oxysporumは,カーバム処理区では対照区とほとんど差がなかったのに対しクロルピクリン処理区では顕著な増殖が認められた.この原因として,くん蒸後の土壌中に生残した微生物の多寡が関与し,それらの微生物がF. oxysporumの増殖に対して抑制的に作用したことが推察された.
Key words: 昆虫成長調節剤,エクダイソン(ecdysone),幼若ホルモン(JH),エクダイソンアゴニスト(bisacylhydrazines),キチン合成,benzoylphenylureas,ステロイドホルモン受容体,JH受容体.
ザントモナス キャンペストリスのヒトに対する安全性試験の概要
ザントモナス キャンペストリスの安全性を評価するため,各種試験を実施した.ラットに対する単回投与毒性は低く,全ての試験において,感染性,病原性,体内生残性は認められなかった.ウサギの眼および皮膚に対する刺激性も認められず,眼およびその周辺組織における生残性も極めて低いものと結論された.モルモットを用いた皮膚感作性試験においては,原液を投与した場合皮膚感作性を示したが,本剤を実用濃度まで希釈した被験液を投与した場合は皮膚感作性を示さなかった.
日本農薬学会
http://pssj2.jp/index.html
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