水収支を考慮した農薬水田圃場モデル(PADDY)による農薬の動態予測(英文)
水田中での農薬濃度予測モデルとして開発したPADDYについて,水管理や気象要因等の環境条件から水田における水収支を計算して農薬動態の予測が可能な数理モデルの改良を行った.改良したモデルの検証を行うため,水田圃場に除草剤モリネートとシメトリンを散布して,水田水中及び土壌中の農薬濃度を経時的に測定した.水管理は水深を一定に保持して,落水や掛け流しを行わない止水管理及び一定の流量で用水を流入する掛け流し管理をして,水収支の異なる条件で試験した.水田水の農薬濃度は施用後短時間内(<1日)で両区での相違はみられなかったが,時間が経つと掛け流し区が止水区に比較してその濃度は低くなった.改良したモデルは圃場の水管理や降雨等の気象要因を考慮した水田の水収支を把握することにより,水収支の異なる条件下における農薬の消長をほぼ予測することができた.
スズメノカタビラのs‐トリアジン除草剤抵抗性の分子機構および異なる光条件下における光合成機能(英文)
静岡県のゴルフ場で発見されたシマジン抵抗性スズメノカタビラ(Poa annua L.)は,無傷植物および単離葉緑体の両レベルで,s‐トリアジン除草剤に対して極めて高い抵抗性を示したが,フェニウレア型除草剤のジウロンに対しては感受性バイオタイプ(野生種)と同程度の感受性を示し,フェノール型阻害剤のジノセブに対しては逆に高い感受性を示した.そこでこの抵抗性バイオタイプについて,抵抗性の分子機構と,異なる光条件下における光合成機能について検討した.その結果,抵抗性バイオタイプでは,葉緑体遺伝子psbAの1塩基の変異により,光化学系IIの反応中心を構成しているD1タンパク質上の264番目のセリンがグリシンに置換されていることが明らかとなった.無遮光条件下では,抵抗性バイオタイプの光合成電子伝達活性は感受性バイオタイプに比べて低下していたが,遮光条件下では明確な差は認められなかった.さらに抵抗性バイオタイプは,個体レベルおよび単離系II膜断片のレベルで,光阻害に対する感受性が高いことが判明した.すなわち,抵抗性バイオタイプの無遮光条件での生育は野生種に比べて劣るものの,遮光条件下では野生種と変わらない生育を示すことが示喚された.
時間制御型溶出性粒剤からのメトミノストロビンの溶出挙動に及ぼす水の物理化学的性質の影響*(英文)
メトミノストロビンを含有する時間制御型溶出性粒剤(TCRG)からの溶出挙動に及ぼす水の物理化学的性質の影響を調べた.メトミノストロビンの溶出挙動は,水のpHや硬度に影響を受けないが,温度が高くなるに応じて,ラグタイムが短くなり,溶出速度が速くなった.累積温度[溶出温度×時間(日)]をX軸に,累積溶出率をY軸にとると,15〜30°Cまでの溶出挙動において,グラフ上の溶出曲線が重なり,累積温度から溶出率を推算できることが明らかとなった.温度によって溶出挙動が変化したのは,PVC皮膜の水透過性が変化したためと考えられた. *メトミノストロビン含有時間制御型溶出性粒剤の開発(第5報)
アセタミプリド粒剤の各種施用法によるキュウリ寄生ワタアブラムシに対する効力(英文)
アセタミプリドの非徐放性粒剤についてキュウリ寄生ワタアブラムシに対する植穴処理における処理方法の違いによる効力を比較したところ,粒剤を植穴に均一に処理しても,また植穴の中心にのみ処理してもほぼ同等の効力を得た.土壌表面処理では株元から粒剤処理位置までの距離が5,10,20 cm範囲では,その距離が短いほど高い効力があった.この傾向は徐放性粒剤でも同様であり,対照薬剤との比較では,アセフェートと同様であった.一方,ベンフラカーブでは処理20日以降では処理位置5 cmに比べ20 cmのほうが優り,前述の2薬剤とは傾向を異にした.これは,薬剤の水溶性の違いによる土壌中での移動の差によるものと考えられた.灌水量と効力の関係は,植穴処理(植え穴に粒剤を均一に処理)および土壌表面処理(株元から10 cmの位置に円状に処理)について多灌水区,少灌水区を設けて効力を検討したところ,植穴処理では少灌水区>多灌水区,表面処理では多灌水区>少灌水区で,総じて植穴処理>土壌表面処理であった.植穴処理の多灌水区のアブラムシに対する効力が少灌水区のそれに劣ったのは,粒剤から溶出した原体成分が根から吸収できる範囲外へも移動してしまったためと考えられた.さらに,徐放性粒剤を用いて,灌水量,土壌の違いによる効力の温室内ポット試験結果から,土壌の違いにより灌水量と効力の関係が異なることが判明した.
青果物中の多成分残留農薬分析に際し前処理の簡便迅速化法について検討した.本報では,植物由来の水分と色素を除去するため,吸水ポリマーとグラファイトカーボン粉末を使用した.16種類の青果物を供試し,21種類の有機燐系農薬について添加回収試験を行ったところ,アセフェート,バミドチオンなど水溶性の高い農薬以外の農薬の回収率は70〜120%であり,CV値も10%以下であった.この方法を用いると,操作時間と労力を大幅に節減できることが示唆された.
2‐(N‐アシルベンジルアミノ)‐4‐メチル‐6‐フルオロアルキル‐1,3,5‐トリアジン系化合物の光合成電子伝達系阻害活性および除草活性(英文)
2‐(N‐アシルベンジルアミノ)‐4‐メチル‐6‐トリフルオロメチル‐1,3,5‐トリアジン系化合物を合成し,PET阻害活性及び除草活性を評価した.構造と活性の相関関係を検討したところ,PET阻害活性では,アシル部位の構造により大きな差が見られた.これら化合物の中では,N‐ホルミル誘導体が,他のN‐アルキルアシル誘導体(アセチル誘導体など)よりも約100倍以上強いPET阻害活性を示した.また除草活性においても,この化合物は強い活性を示した.この化合物が強いPET阻害活性と除草活性を示したことから,2‐(4‐クロロ‐N‐ホルミルベンジルアミノ)‐4‐メチル‐6‐フルオロアルキル‐1,3,5‐トリアジン系化合物を合成し,そのPET阻害活性及び除草活性を評価した.試験したほとんどの化合物は,アトラジンよりも強いPET阻害活性を示し,2‐(4‐クロロ‐N‐ホルミルベンジルアミノ)‐4‐メチル‐6‐トリフルオロメチル‐1,3,5‐トリアジンはアトラジンよりも3倍強いPET阻害活性を示した.またこれらの化合物は強い除草活性を示した.しかし,2‐(4‐クロロベンジルアミノ)‐4‐メチル‐6‐フルオロアルキル‐1,3,5‐トリアジン系化合物と比較すると,これらへのN‐ホルミル基の導入は,除草活性向上の改善にはつながらなかった.
Maclura pomifera(オーセージオレンジ)由来の2種類のイソフラボノイドであるオサジンとポミフェリンの Ostrinia nubilalis(アワノメイガの近縁種)の成長と摂食に対する効果(英文)
オーセージオレンジ(クワ科ハリグワ属植物)の成熟果実から2種類のイソフラボノイド,オサジンとポミフェリンを単離し,アワノメイガに対する摂食阻害と成長抑制効果を調べた.人工飼料の乾物重量あたり0.4%以上の濃度では,オサジンはアワノメイガの飼料消費量,消費速度および成長を顕著に抑制した.一方,ポミフェリンは,0.1%以上の濃度ではアワノメイガの飼料消費量,成長,排泄量および成長速度を顕著に抑制した.また,ポミフェリンは,0.4%以上の濃度でアワノメイガの飼料消費速度を抑制した.両化合物とも,排泄速度に対しては有意な効果を示さなかった.ポミフェリンはアワノメイガ雌の蛹重を減少させたが,幼虫期間や蛹期間および雌雄の羽化率には顕著な効果を示さなかった.両化合物のアワノメイガの防除剤としての利用には限界があるように思われた.
2‐(5,7‐ジフルオロ‐3‐インドリル)プロピオン酸(5,7-F2-IPA)および2‐(5,7‐ジフルオロ‐3‐インドリル)イソ酪酸(5,7-F2-IIBA)の合成とそれら各々のオーキシンおよびアンチオーキシン活性(英文)
2‐(5,7‐ジフルオロ‐3‐インドリル)プロピオン酸(5,7-F2-IPA, 1)および2‐(5,7‐ジフルオロ‐3‐インドリル)イソ酪酸(5,7-F2-IIBA, 2)を5,7‐ジフルオロインドール‐3‐酢酸(5,7-F2-IAA)から官能基の保護, メチル化および脱保護化を行って合成した.アベナ子葉鞘伸長試験の結果,5,7-F2-IPAはIAAより強い伸長活性を示したが,子葉鞘伸長阻害活性を示さなかった.5,7-F2-IIBAは1×10−4 Mで子葉鞘伸長阻害活性を示したが,興味あることに3×10−6 M以下の濃度では弱いポジティブなオーキシン活性を示した.更に5,7-F2-IIBAはIAA誘導のアベナ子葉鞘伸長において5,7-Cl2-IIBAより若干弱い活性を示す新規なアンチオーキシンであることが示された.
農薬の内分泌攪乱作用検出のためのアプローチ
Kew words: エストロゲン様作用(estrogenic effects),抗アンドロゲン様作用(anti-androgenic effects),内分泌活性物質(endocrine active compounds),スクリーニング試験(screening assay),確定試験(definitive study),2世代繁殖試験(two-generation reproductive toxicity study).
殺虫剤の作用機構の最近の進歩 : ピレスロイド,フィプロニル,インドキサカルブ(英文)
Kew words: pyrethroid, fipronil, indoxacarb, sodium channel, GABA receptor, nicotinic acetylcholine receptor, selective toxicity, temperature dependence.
インダノファンの安全性評価のため,その原体を用いて各種の試験が実施された.
いずれの投与経路においても急性毒性は弱く,皮膚一次刺激性はみられなかった.眼一次刺激性では, 軽度な刺激性がみられたが,点眼後3日には回復した.皮膚感作性は,Maximization法で陽性であったが, Buehler法では陰性であった.
反復経口投与時に発現する主な毒性は,いずれの動物種とも血液凝固阻害であり,ラットはマウスおよび 犬にくらべ感受性がやや高かった.同様な影響はラット新生児においても観察されたが,成長にともない回復した. ウサギを用いた検討から,この血液凝固阻害作用は投与やめると速やかに回復し,Vitamin Kの投薬はその回復性を 促進した.ラットおよびマウスとも発がん性は認められず,また,各種の変異原性も陰性であった.
インダノファンは平成11年8月に農薬登録され,登録保留基準は米0.1 ppmに設定された.インダノファンは定められた使用基準を遵守すれば,安全性の高い薬剤であり,農業資材の一つとして有用であると考えられる.
日本農薬学会
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