イネ種子病原菌に対するペフラゾエートのエナンチオ選択的抗菌活性(英文)
ペフラゾエートは,エルゴステロールの前駆体である24-メチレンジヒドロラノステロールの14α位脱メチル阻害剤であり,その化学構造には不斉炭素原子1個を有する.ペフラゾエートの(S)-(−)-異性体は,(R)-(+)-異性体に比べ,イネばか苗病菌に約30倍の抗菌活性を示すことを既に報告した.この抗菌活性におけるエナンチオ選択性の要因は,不斉炭素原子に隣接する窒素原子に立体的に嵩高い2-フラニルメチル基が置換しているためであると考えられた.そこで,このペフラゾエートのエナンチオ選択的抗菌活性の要因を立証するため,ペフラゾエートのN-メチル類縁体の(R)-(+)-異性体と(S)-(−)-異性体を合成し,それらの菌叢生育阻止試験による抗菌活性を検定した.ペフラゾエートはイネばか苗病菌と同様,イネごま葉枯病菌およびイネいもち病菌に対してもエナンチオ選択的抗菌活性を示したが,ペフラゾエートのN-メチル類縁体では,これら3種の病原菌に対しエナンチオマー間の活性差はほとんど認められず,また,14C-酢酸を基質にしたイネばか苗病菌のエルゴステロール生合成阻害程度においてもエナンチオマー間での選択活性を示さなかった.そこで,その要因を考察するため,ペフラゾエートとそのN-メチル類縁体の(R)-および(S)-異性体の安定分子形状を相互に比較検討した.ペフラゾエートとそのN-メチル類縁体のエナンチオマーは,いずれも油状液体であり,X線構造解析が困難なため,結晶で得られたペフラゾエート誘導体の単結晶X線構造解析を行いコンピューターによる構造の最適化によりペフラゾエートとそのN-メチル類縁体の安定立体構造を求め,それらの形状を比較した.その結果,フラン環部分以外のペフラゾエートの安定分子形状は,N-メチル類縁体のそれと類似していた.フラン環を有しないN-メチル類縁体では,(R)-および(S)-異性体間で抗菌力とエルゴステロール生合成阻害力に差が認められないことより,ペフラゾエートにおけるフラン環の占める空間とその配向の違いが抗菌力とエルゴステロール生合成阻害におけるエナンチオ選択活性の要因であると推察された.
2,4-D誘導体のホスファチジルコリン多重層リポソームへの分配(英文)
ホスファチジルコリン多重層リポソーム中の螢光プローブに由来する螢光偏光,螢光強度のpH,温度依存性並びに膜の相転移温度に与える2,4-D誘導体の影響を調べた.pH 3.0 で非解離型の2,4-Dは膜ゲル状態における螢光偏光の減少とともに膜の相転移温度を低下させ,pH 7.5 での解離型は膜表面における前転移温度を低下させた.螢光実験並びに多重層リポソームへの分配係数のpH依存性から2,4-D誘導体の非解離型は脂質二重膜内部のグリセロール骨格付近から疎水性領域にかけて分配され,その程度は疎水性,酸解離定数,化学構造に左右された.一方,解離型は膜表面に吸着するものと推定された.
2,3-O-シクロヘキシリデン-D-グリセルアルデヒドから(−)-ent-アルトラクトン,(+)-7a-epi-アルトラクトン,(−)-ent-イソアルトラクトンおよび(−)-7a-epi-イソアルトラクトンの合成(英文)
抗腫瘍活性物質アルトラクトン類の合成研究を行った.2,3-O-シクロへキシリデン-D-グリセルアルデヒドを出発物質として,新たに3か所の不斉点を導入する経路を採用し,(−)-ent-アルトラクトン,(+)-7a-epi-アルトラクトン,(−)-ent-イソアルトラクトン,(−)-7a-epi-イソアルトラクトンの四化合物を調製した.トランスに縮環したアルトラクトンアナログは初めての合成例である.
トリ-O-アセチル-D-グルカールを出発物質とするアルトラクトン,イソアルトラクトンおよび5‐ヒドロキシゴニオタラーン両鏡像体の合成と生物活性(英文)
前報に続き,アルトラクトン,イソアルトラクトン,5-ヒドロキシゴニオタラミンの両鏡像体の合成を行った.トリ-O-アセチル-D-グルカールから得られたアセタールに必要な側鎖を延長後,アセタールをラクトンに導き,立体化学を修飾することにより,5-ヒドロキシゴニオタラーンの両鏡像体を得た.更にエポキシ化・酸処理によってアルトラクトンとイソアルトラクトンの両鏡像体を合成した.アルトラクトンの6種の異性体の生理活性を測定した結果,殺ブラインシュリンプテストでは,3位の水酸基が covex 面にある(立体的に空いている)化合物の活性が強かった.レタス発芽においては(2S,3S)の立体を有する化合物が発芽,特に根の伸長に強い阻害効果を示した.
アセタミプリド錠剤の各種施用法によるキュウリ寄生ワタアブラムシに対する効力(英文)
アセタミプリド錠剤の各種土壌施用法によるキュウリ寄生ワタアブラムシに対する効力を粒剤と比較検討した.錠剤(0.15 g 中アセタミプリド 20 mg 含む)1 錠/株及び 2%徐放性粒剤1 g/株の植え穴中心部処理では処理28日後までワタアブラムシを低密度に抑えて,粒剤を植え穴に均一に処理した場合と同様に高い効力を示した.錠剤と粒剤の土壌表面処理では,株元から処理位置が 5,10,20 cm における効力を比較したところ,両製剤とも距離が短いほど効力が高く,この傾向は錠剤でより強かった.錠剤の育苗ポット株元処理と植え穴処理を比較検討したところ,植え穴処理と同様に優れた効力を示し,錠剤は薬剤を株元近くに処理する育苗ポット施用に適していた.次に,アセタミプリド 20 mg を含有する 0.15,0.3 及び 0.6 g の錠剤を用いて植え穴処理および土壌表面処理による効力を調べたが,植え穴処理は錠剤が大きくなると残効性が優れ,土壌表面処理は逆の傾向が認められた.これらの結果から,錠剤は粒剤の効力および処理方法を改良できる可能性があると判断された.
除草剤イマゾスルフロンの畑地土壌中における分解および下方移行性(英文)
イミダゾピリジン環及びピリミジン環の炭素を14Cで標識したイマゾスルフロンを用いて畑地状態の土壌中における分解性及び土壌カラム中での移行性について検討した.イマゾスルフロンは土壌中において半減期約 40 日 の速度で消失した.主要分解経路はスルホニル尿素結合の加水分解であり,分解物として ADPM 及び IPAN を与えた.イマゾスルフロンを土壌に処理して 30 日間エイジングすることにより,エイジングをしない場合に比べて土壌カラム中での移行性は小さくなり,また,ADPM 及び IPSN は親化合物と比較してより土壌に強く吸着された.このことからイマゾスルフロンは畑地状態の土壌中において比較的速やかに消失し,また,下方移行性は時間の経過に伴って小さくなることが示唆された.
初中期水田用除草剤インダノファン 2-[2-(3-chlorophenyl)-oxiran-2-ylmethyl]-2-ethylindan-1,3-dione は,オキシラン環の2位に不斉炭素を有するラセミ化合物である.キラルHPLCを用いた分取により,インダノファンの光学活性体を得て,その除草活性を調べたところ,(−)-体はラセミ体の約2倍の除草活性を有するが,(+)-体は除草活性を有さないことが分かった.さらに,(−)-体を結晶性の良い環状ジチオカーボネート化合物に誘導し,X線結晶解析を行なった.その結果,除草活性を有する(−)-体の絶対配置はS体と決定された.オキシラン部分の絶対配置が活性を左右することから,オキシラン部分は活性発現に重要な役割を果たすことが推測された. 1新規オキシラン系化合物の合成および除草活性(第5報)
イネいもち病菌のフサライドに対する簡易な感受性検定方法(英文)
メラニン生合成阻害剤(MBI)の作用は非殺菌的であることから,イネいもち病に対する感受性検定法が確立していない.セロファン膜上でのイネいもち病菌付着器のメラニン化阻害を指標として,フサライドに対する圃場分離株の感受性分布を調べた.フサライド実用化前後にあたる1976年以前に分離された農水省由来 12 株中 10 株と,各県の農業試験場から提供を受けた1990年代の分離菌 110 株中 79 株は,セロファン膜上で付着器を形成し,付着器のメラニン化も認められた.これらの菌株に対するフサライドのメラニン化最低阻害濃度(MICAM)は,0.10〜1.5 mg/l の範囲で 0.39 mg/l を頂点とする一峰性の分布を示し,分離年,分離された地域における違いは認められなかった.トリシクラゾールについても一峰性の分布が得られ,両剤のMICAM値間には正の相関が認めめられた.また,MICAM が異なる菌株をポット接触試験に供したが,これらに対するフサライドの効果に違いは認められなかった.MBl 長期使用によっても,イネいもち病菌の感受性に変動は認めめられず,MICAM は,感受性変動を監視する簡便な指標と考えられる.
早熟変態誘起活性を示す 2-メチル-5-ピリジル2-(置換フェノキシ)エチルエーテル(英文)
幼若ホルモン(JH)様活性とともに抗JH活性を示すことが知られているエチル4-[2-(tert-ブチルカルボニルオキシ)ブトキシ]ベンゾエート(ETB)の構造を改変して,カイコ幼虫に対して早熟変態を誘導する 2-(3-クロロフェノキシ)エチル 2-メチル-5-ピリジルエーテル(2)を見いだした.ベンゼン環上の3位の塩素をフッ素,臭素,トリフルオロメチル,メチル基等に換えると活性は低下した.2-メチル-5-ピリジル部位を 3-ピリジル基や種々の置換ピリジル基に変換すると活性は消失したことから,2-メチル-5-ピリジル部位は活性発現に必須であった.ETB が 3 齢起蚕に投与した場合のみ早熟変態を誘導したのに対して,化合物2 は 3 齢 72 時間目や 4 齢初期に施用しても活性を示したことから,ETB とは作用機構が異なることが示唆された.また,化合物2 は摂食法でも早熟変態を誘導した.
1-アリールメチル-2-アリールイミダゾリジンの合成と殺ダニ活性(英文)
新規の1-アリールメチル-2-アリールイミダゾリジンを2種の方法,即ち,2-アリールイミダゾリジンの1-位の窒素原子へのハロゲン化アリールメチルの塩基存在のもとでの求電子置換反応あるいはN-アリールメチルエチレンジアミンとベンズイミデートとのイミダゾリジン環化反応によって合成した.生成物の構造は NMR,MS や IR スペクトルなどで確認した.MS スペクトルでは 2-置換イミダゾリジン構造に特徴的な解裂パタンが見られた.殺ダニ活性はアリールメチルに関してはパラ位のクロロ,t-ブチル,フェニル置換体,2-アリールに関してはオルト位のジフルオロ体に見られ,その中で,1-(p-クロロベンジル)-2-フェニルイミダゾリジンと1-ベンジル-2-(2,6-ジフルオロフェニル)イミダゾリジンに50 ppmで強い活性が見られた.1位の(クロル置換)ピリジルメチルや2位のピリジン誘導体は弱い活性しか示さなかった.
農作物の生産現場における病害虫防除技術 ―IPMの理念と現実そして展望―
アセキノシルは新規開発されたナフトキノン骨格の殺ダニ剤で,各生育ステージのダニに対して速やかに活性を発現する.本剤はミトコンドリアの電子伝達系の酵素阻害により殺ダニ活性を示すが,その作用点が他の薬剤とは異なるため,薬剤抵抗性ダニにも活性を示すことが確認されている.本剤の原体及び15%フロアブル製剤の安全性試験の結果,アセキノシル及び製剤は急性毒性,並びに眼及び皮膚に対する刺激性が非常に弱く,皮膚感作性もないことが確認された.また発がん性,変異原性及び催奇形性は認められず,繁殖性への影響もなかった.ラットに本剤を大量に経口投与した場合,血液凝固時間の延長がみられた.アセキノシルの化学構造がビタミンKと似ていることから,アセキノシルを投与されたラット体内では,アセキノシルがビタミンK依存性血液凝固系に介在し,血液凝固能の低下が誘発されると推測された.これらの変化はイヌには認められなかった. ここに要約した安全性試験結果に基づき,アセキノシルのADIは0.027 mg/kg/dayに設定された.残留農薬基準はなす1 ppm,きゅうり(含ガーキン)0.5 ppm,すいか0.1 ppm,メロン類0.1 ppm,みかん0.2 ppm,なつみかんの果実全体2 ppm,レモン1 ppm,その他のかんきつ1 ppm,りんご1 ppm,日本なし2 ppm,西洋なし2 ppm,すもも(含プルーン)1 ppm,おうとう2 ppm,ぶどう0.5 ppmに設定された. 本剤は,農薬の一般的な安全使用上の注意事項を遵守して使用する限り作業者に対する安全性が高く,有用な農業資材と考えられる.
日本農薬学会
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