Vol. 27 No. 3の要旨

報文

2-Methoxy-2-[2-(benzylideneaminooxymethyl)-phenyl]-N-methylacetamide誘導体の殺菌活性 (英文)

  2‐メトキシ‐2‐(2‐置換フェニル)‐N‐メチルアセトアミド誘導体の側鎖部分を種々変換し,高い殺菌活性を示す化合物の検索を行った.側鎖に α‐メチルベンジリデンアミノオキシメチル基を導入した化合物に高い活性を示すものが見出された.特に α‐メチルベンジリデンアミノオキシメチル基のベンゼン環の3‐または4‐位にハロゲン,トリフルオロメチルまたジフルオロメトキシ等の比較的嵩の低い置換基を導入した化合物が高い活性を示した.α‐位はメチルおよびエチル基を持つ化合物に優れた活性が認められたが,プロピル基では低下する傾向が認められた.メチルチオ基を導入した化合物ではキュウリ灰色かび病に対する活性に比較しキュウリべと病に対する活性が高かった.オキシム部に生じる2つの幾何異性体の活性は,E‐体がZ‐体に比較し全ての病害で高い活性を示した.α‐メチルチオ誘導体の中で4‐トリフルオロメチルおよび4‐ジフルオロメトキシ置換体は圃場においてもキュウリべと病に対し高い防除効果(25〜100 ppm)を示し,さらに前者はジャガイモ疫病に対しても高い防除効果を示した.

キーワード:  2-(substituted benzylideneaminooxymethyl)phenylacetamide derivatives, fungicide, strobilurin analogue.

イネ稲熱病に対するKC10017の生物活性 (英文)

  イネいもち病に対して強い活性を示すKC10017の殺菌作用の特性を温室で試みた.KC10017を0.5 μg/mlの濃度で処理した1日後に病原菌を接種すると発病が100%抑制されたが,14日後には効果が落ち54%の防除率しか示さなかった.特にKC10017は100 μg/mlの処理でも治療および移行効果は認められなかった.ところが,1.0 μg/mlの低濃度ではいもち病菌の付着器や菌糸でのメラニン生合成を完全におさえ,さらに,KC10017で処理してからいもち病菌を接種する際,イネの葉に傷をつけると防除効果が低下し,メラニン生合成を阻害する化合物であることが確認された.

キーワード:  melanin biosynthesis inhibitor, KC10017, an oxadiazole compound, rice blast.

フェニトロチオンおよびそのオキソン体の水‐底質系における代謝分解 (英文)

  フェニトロチオン及びそのオキソン体のフランスの湖水及び日本の池水‐底質系での好気的な代謝試験を行った.系への通気方法がフェニトロチオンの代謝経路に与える影響を見るために,水層中に穏やかに通気するかまたは水表面上に空気を流す方法で実験を行った.いずれの方法においても代謝経路はほぼ同じであったが水‐底質間の放射能分布に若干の違いが認められた.水中通気による嫌気雰囲気の減少から,フェノール体と二酸化炭素の生成量が増加し還元的代謝が減少した.フランスと日本の水‐底質系でのフェニトロチオンの代謝に顕著な差異は認められず主に P‐O‐アリール結合の開裂によるフェノール生成,ニトロ基のアミノ基への還元とそれに続くアセチル化により分解された.オキソン体の生成(<1%)は主要な分解経路ではなく,速やかにP‐O‐アリール結合が開裂しフェノール体に分解された.

キーワード:  biodegradation, fenitrothion, water sediment system, reduction, nitro group, ester hydrolysis, oxidative desulfuration.

非解離性農薬の根菜類根部による取り込みに関する数理モデル (英文)

  1‐オクタノール/水分配係数(log Kow)の異なる非解離性農薬furametpyr(log Kow=2.36)及びpyriproxyfen(log Kow=5.37)を使用し,水耕栽培にてダイコン根部への取り込み経路を調べたところ(1)蒸散流を介した根毛から根内部への移行,(2)暴露水から根部表層への分配吸着,(3)根部表層から根内部への浸透拡散,と大きく3種類に分類された.furametpyrは蒸散流とともに根毛から根内部に取り込まれるのに対して,pyriproxyfenは根部表層に分配吸着され,その後表層から内部へと浸透拡散すると思われ,log Kowに依存して取り込みの主要経路が変化することが示唆された.以上の結果をもとにpartition-theoryを原理として,新たに農薬の根菜類根部への取り込みを予測できる数理モデルを構築した.また,モデル構築時の1/10の濃度で処理されたfurametpyrおよびpyriproxyfenの根部取込み量を分析し,予測値と比較した.その予測値と実測値の比はfurametpyrで1.01‐1.38,pyriproxyfenで0.75‐1.28となり,本モデルの有効性を示す良好な結果が得られた.

キーワード:  plant uptake model, pesticide, root crop, furametpyr, pyriproxyfen.

高い殺虫・神経興奮活性およびニコチン性アセチルコリン受容体でのイミダクロプリド結合部位への親和性をもつアルキレンビスイミダクロプリドの合成 (英文)

  アルキレン鎖(Cn: n=2〜10),およびフェニレン,C=C,C●Cおよびエーテル結合を介在したアルキレン鎖で連結されたビスイミダクロプリドを合成した.これらのクロロニコチニル2量体化合物は,注射法によるワモンゴキブリに対する殺虫試験において,最少致死薬量が2〜30ナノモルと非常に高い活性を示した.その中で一番効果の高かったヘキサメチレン化合物の活性は,イミダクロプリドとほぼ同等であった.しかし代謝阻害剤の併用によりイミダクロプリドでは約35倍活性が上昇したのに対し,ヘキサメチレン化合物では8倍にすぎなかった.イエバエ頭部膜画分の[3H]イミダクロプリド結合ニコチン性アセチルコリン受容体への結合実験では,ヘキサメチレン化合物のIC50 値はイミダクロプリドの160倍であり,それだけ結合活性は弱かった.ゴキブリ中枢神経に対しては,最初興奮を誘起したのち遮断効果をもたらした.その効果の発現状況の変化は,イミダクロプリドの場合とほぼ同等であった.

キーワード:  neonicotinoid insecticides, imidacloprid, American cockroach, insecticidal activity, nerve-excitatory activity, alkylene-tethered bis-imidacloprid.

α-Cyanoacetamide誘導体の合成と殺菌活性:新規イネいもち病防除剤ジクロシメット(S-2900)の創製 (英文)

  新しいイネいもち病防除剤を見つけるため,多くの α‐シアノアセトアミド誘導体および関連化合物を合成し,イネいもち病に対する予防効果を茎葉散布試験および灌注試験で調べた.いくつかのN‐[1‐(置換フェニル)エチル]‐2‐シアノ‐3,3‐ジメチル‐ブタンアミドおよび‐2‐ペンテンアミドが両試験において高活性を示した.それらの中から,(RS)‐2‐シアノ‐N‐[(R)‐1‐(2,4‐ジクロロフェニル)エチル]‐3,3‐ジメチルブチルアミド(ジクロシメット,S-2900)を浸透移行性を有する実用的なイネいもち病防除剤として選抜した.

キーワード:  rice blast fungicide, systemic activity, α-cyanoacetamide derivatives, stereoisomer, diclocymet, S-2900.

チアクロプリドとその非環状類縁体およびシアノグアニジン誘導体の殺虫活性と神経遮断活性 (英文)

  チアクロプリドの非環状類縁体およびシアノグアニジン関連化合物を合成し,それらのワモンゴギブリに対する殺虫活性を化合物単独,あるいは代謝阻害剤を併用して注射法により測定した.単独の場合には,チアクロプリドと2種のシアノグアニジン誘導体が最も高い活性を示し,イミダクロプリドの20分の1程度であった.チアクロプリドを含む含硫黄化合物の活性は,代謝阻害剤の併用により100倍位にまで増大した.他方,シアノグアニジン誘導体の場合には,代謝阻害剤による増大効果ははるかに小さかった.ワモンゴキブリの摘出神経に対しては,ほとんどの供試化合物は最初興奮を誘起した後,遮断効果をもたらした.チアクロプリドとその非環状類縁体の遮断活性は,イミダクロプリドのものに匹敵していた.全体としては遮断活性が高いほど,代謝阻害剤併用条件下での殺虫活性が高くなる傾向が見られた.

キーワード:  chloronicotinyl insecticide, thiacloprid, imidacloprid, American cockroach, insecticidal activity, neuroblocking activity.


短報

N-Benzyl-4-chloro-N-isobutyl-2-pentenamide系化合物の除草作用機構(英文)

 光要求性除草活性を示した4種のN-benzyl-4-chloro-N-isobutyl-2-pentenamide系化合物の作用機構を明らかにするために,トウモロコシ発芽黄化葉由来protoporphyrinogen-IX oxidase (Protox)の阻害活性試験,単細胞緑藻 Scenedesmus acutusを用いた生長阻害,クロロフィル減少効果,エタン生成量およびカロテノイド減少効果を測定した.その結果,Protox阻害活性とエタンの生成が確認された.しかし4種のペンテンアミド系化合物はいずれも,クロロフィル減少効果に対してよりも,カロテノイド減少効果に対してより強い活性を示した.カロテノイド生合成経路に及ぼす影響を確認するために,ペンテンアミド系化合物添加48時間後のScenedesmus acutus細胞よりカロテノイドを抽出して,その吸収スペクトルを測定した.その結果,カロテノイドの減少は確認されたが,中間物質の蓄積は認められなかった.以上の結果より,ペンテンアミド系化合物はperoxidizing効果によって,いったん生成したカロテノイドが分解されるタイプの機構を併せ持つことが示唆された.

キーワード: N-benzyl-4-chloro-N-isobutyl-2-pentenamides, phytotoxic mechanism of action, protox inhibition, ethane formation, photosynthetic pigments degrees.

低真空電顕凍結乾燥観察法による効率的なBT製剤の品質判定(英文)

 Bacillus thuringiensis (BT)製剤では,品質や剤種の確認をカイコを用いた生物試験で実施している.BT剤の品質管理のために必要なこの生物試験はカイコの飼育などに多大の時間と労力がかかる.BT製剤サンプルの微細構造を電子顕微鏡で確認できれば問題が解決する.そこで,同製剤品質管理のために低真空‐走査型電子顕微鏡(LV-SEM)を応用する技法の確立を目標として,生物試験の結果から劣化が認められたサンプルを改良鈴木法によって比較検討した.その結果,SEM自身の熱線等による剤の劣化やひずみを防ぎ,また標本作製のための時間や手間もかからず,粒子表面の細かな構造変化を明瞭に観察できる便利な方法であることが明らかになった.したがって,今後の研究次第でBT製剤の品質管理において有効なツールになると考えられた.

キーワード: Bacillus thuringiensis, BT formulation, quality check, low-vacuum SEM.




日本農薬学会

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