Vol. 24 No. 1の要旨

報文

N-アルキル-N-置換ベンジル-4-ハロ-2-アルケンアミドの合成と除草活性(英文)

N-アルキル-N-置換ベンジル-4-ハロ-2-アルケンアミドの合成を行い,それらのタイヌビエ(Echinochloa oryzicola)に対する除草活性を評価した.アシル部位とアミド部位に於ける置換基を種々変化させ除草活性との関係について検討を行った.それらの除草活性は光要求型であることが観察された.その構造と活性の関係に於いて,アシル部位としては4-クロロ-2-ペンテノイル基が最も良好であり,アミド部位に於ける置換基についてはイソブチル基または,イソペンチル基の何れかと4-シアノもしくは4-クロロベンジル置換基との組合せが除草活性に対し最も好ましいことが判明した.

N-アルキル-N-(4-置換ベンジル)-4-クロロ-2-ペンテンアミドのEchinochloa oryzicola に対する除草活性の定量的構造活性相関(英文)

タイヌビエ,Echinochloa oryzicolaに対するN-アルキル-N-(4-置換ベンジル)-4-クロロ-2-ペンテンアミドの除草活性を評価し,アミド部位に於けるN-アルキル基及びベンジル基のベンゼン環置換基と除草活性との関係を物理化学パラメーターを用い定量的に解析した.除草活性はアミド部位に於けるトータルな疎水性とパラボリックな関係であることが示された.また,ベンゼン環上置換基の電子吸引性及び水素結合受容性が除草活性に重要であることが判明した.

光要求型除草剤耐性タバコ細胞の選択(英文)

光要求型除草剤pyraflufen-ethyl(ET-751)類縁体のET-62311存在下でプロトプラスト由来のタバコカルスを培養し,240倍以上感受性の低下した耐性細胞を選抜し,ETR-056,245及び253株と名付けた.これら耐性株にET-62311処理を行ったところ,ETR-056株でのみProto IXの蓄積が認められた.光要求型除草剤及び他の作用性を有する除草剤に対する交差耐性を検討したところ,何れの株もpyraflufen-ethyl等の光要求型除草剤に対して交差耐性を示したのに加え,ETR-056株ではパラコート,ETR-253株では他の作用性を有する複数の除草剤に対して交差耐性を示した.一方,ETK-245株におけるprotoporphyrinogen oxidase(Protox)活性は感受性細胞とほぽ同程度であったが,pyraflufen-ethylに対して強い耐性を示した.以上の結果から,ETR-056株では活性酸素消去系,ETR-253株では薬剤の代謝あるいは取り込みの低下による多剤耐性,ETR-245株ではProtoxの光要求型除草剤性型への変異が,それぞれ耐性に関与していることが示唆された.

タバコにおける光要求型除草剤耐性の分子的基盤(英文)

大腸菌のprotoporphyrinogenoxidase(Protox)遺伝子欠損変異株(SASX38)を用いた遺伝的相補法によって,タバコ葉から菓緑体及びミトコンドリア型Protox cDNAを単離し,全塩基配列を解明した.得られた塩基配列情報を利用し,光要求型除草剤pyraflufen-ethyl耐性タバコ細胞ETR-245株及び感受性株から,RT-PCRによって各々2種のProtox cDNAを増幅した.これらProtox cDNAによって生育を相補した大腸菌SASX38株に対するpyraflufen-ethylの生育阻害度を測定し,各遺伝子産物のpyraflufen-ethylに対する感受性を比較した.ミトコンドリア型遺伝子産物には感受性の差は認められなかったが,葉緑体型遺伝子産物ではETR-245株由来のものは感受性株由来のものに比べ,4000倍以上の耐性を示した.さらに,これら葉緑体型Protox cDNAの全塩基配列を比較した結果,1塩基にのみアミノ酸置換を伴う塩基の変異が認められた.したがって,この変異がETR-245株における光要求型除草剤耐性の原因であることが明らかとなった.

アセタミプリド2%粒剤の各種土壌処理法におけるキャベツのコナガに対する効力(英文)

前報で,アセタミプリド粒剤がキャベツの植穴処理や苗箱処理でコナガに対して優れた効力を示すことを報告したが,さらに,より効果的で,実用的な処理法の探索を目的に,各種土壌処理法による効力を比較検討した.植穴処理における効力を苗箱処理,植溝処理,全面混和処理及び株元処理における効力と比較した結果,植穴処理1g/株≒苗箱処理1g/株>株元処理1g/株の順で,また,植穴処理1g/株≒植溝処理6kg/lOa≒全面混和処理12・/10aであった.さらに,植穴処理の2葉期と4葉期の苗を用いた試験では,ほぽ同等の効力であり,セル成型苗を用いた効力と引き抜き苗の場合でもほとんど効力差は認められなかった.これらの結果からアセタミプリド2%粒剤にとって植穴処理と苗箱処理が最も効果的であり,実用的でもあると考えられた.

2-クロロ-5-(3, 4, 5, 6-テトラヒドロフタルイミド) 安息香酸エステルとその4-フルオロ置換体における植物毒性の比較(英文)

2-クロロ-5-(3, 4, 5, 6-テトラヒドロフタルイミド)安息香酸エステルとその4-フルオロ置換体のprotoporphyrinogen-IX oxidase(Protox)阻害活性と植物毒性活性(peroxidizing活性)を,トウモロコシ由来のエチオプラストから得たProtoxの阻害活性と単細胞緑藻 Scenedesmus acutus によるエタンの発生をそれぞれ指標として測定した.4-フルオロ置換体によるProtox阻害活性は2-クロロ-5-(3, 4, 5, 6-テトラヒドロフタルイミド)安息香酸エステルに比べほぽ同等か多少弱く,フッ素原子を有する化合物群はフッ素化されてない化合物群より強いperoxidizing活性(エタン発生)を示した.このことは我々が以前見いだした“フェニル環2位にフッ素原子を有する環状イミド系化合物はフッ素置換されていない類縁化合物よりperoxidizing活性は強いが必ずしもPmtox活性は強くない”という事実を補強するものであり,一般化するものである.

新規ピラゾールカルボキサミド誘導体の合成と選択活性(英文)

ピラゾール環を骨格とする新しい系統の化合物を合成し,その殺ダニ活性と魚毒性を調べた.N-フェノキシエチルピラゾール-5-カルボキサミド誘導体(III)に,ナミハダニに対する高い活性が認められた.しかしながら,メダカに対する毒性も高いレベルにあった.そこでN-フェノキシエチルピラゾール-5-カルボキサミド誘導体(III)を基にして,ハダニと魚間の活性選択性を得るために,N-アシル-N-フェノキシエチルピラゾール-5-カルボキサミド誘導体(IV)へと導いた.生物試験の結果,N-アシル化誘導体(lV)のいくつかの化合物に,高い殺ダニ活性を維持しながら,魚毒性の低い化合物を見出した.この選択活性は,N-アシル化誘導体(IV)のなかでピラゾール環の4位が無置換で,3位にtert-ブチル基が導入された時,最も大きかった.

分子Simi1arity 解析によるネオニコチノイド系殺虫剤の三次元構造活性相関(英文)

新しい分子similarity解析の手法をネオニコチノイド系殺虫剤の三次元構造活性相関に応用した.三次元空間こおける二つの分子の静電ポテンシャル及び立体的形状をベクトルで表し,それぞれの内積を分子の静電的及び立体的類似性を表す指数(similarity index)として定義した.種々の構造をもつ12のネオニコチノイド系殺虫剤についてsimilarity indexを算出し,これらの分子相互の類似性を表すsimilarity行列を得た.各化合物のニコチン性アセチルコリンレセプターへの結合親和性(pKi)を生物活性の指標とし,pKiとsimilarity行列との関係をpartial least squares (PLS)法で解析した.その結果,一連の化合物全ての間の分子Similarityに基づく有意な相関式が得られ,静電的及び立体的な類似性がネオニコチノイド系殺虫剤の活性の強さにとって重要な因子であることが示された.また,活性に寄与する静電的及び立体的性質を三次元空間に表示することにより,活性発現のための構造条件を視覚的に把握することができた.

ハスモンヨトウに対するBacillus thuringiensis Cry1Cトキシンの殺虫活性を増大するSerratia marcescensの培養上清の協力効果(英文)

Serratia marcescensの培養上清がBacillus thuringiensisのdelta-endotoxin(Cry1C)のハスモンヨトウに対する殺虫活性を増大する協力作用を持つことが示された.協力作用は致死活性と幼虫発育阻害活性においてともにみられたが後者でより顕著であった.協力効果は上清及びCry1Cの濃度に比例して指数関数的に高くなり,最高でCry1C単独の8倍以上に高まった.この協力活性はハスモンヨトウ以外のヨトウガ,コナガおよびチャノコカクモンハマキにはいずれも顕著ではなく,上清中の協力作用物質は昆虫の種により特異的に発現するものと思われた.

短報

N-(4-トリフルオロメチルフェニル) カルバモイルピラゾリン系化合物の対掌体のN-メチル化による殺虫活性に対する効果(英文)

殺虫活性をもつmethyl 3-(4-chlorophenyl)-1-[N-(4-trifluoromethylphenyl)carbamoyl]-4-methyl-2-pyrazoline-4-carboxylate(N-H体)の光学異性体を分離し,それぞれのN-Me体を合成した.ワモンゴキブリとイエバエに対する殺虫活性を,それぞれ注射法と局所施用法で測定した.N-Me体の殺虫活性はN-H体とほとんど変わらず,S体はR体より約10〜55倍高かった.X線結晶椎造解析によると,N-H休は伸びた分子構造を,N-Me体は折れ曲がった構造をしていた.

ミニレビュー

農薬の動態予測とコンピューターシミュレーション

家庭用殺虫剤の室内挙動予測ソフトInPestの開発

InPestの開発に当たりまず,粒子動態や蒸発定理,流体力学を用い化合物および製剤の挙動を詳細に解明した.次いで内装材の性質や温湿度変化など室内環境要因を物理化学式で表現し,区画の体積や化合物保有能の経時的な変化に対応できるようFugacityモデルを発展させた.さらに,挙動予測値から散布者や居住者の暴露量を推定する手法を確立した.このようにして得たInPestは殺虫剤の分子量,蒸気圧,水溶解度,オクタノール/水分配係数と無影響量を入力することで,殺虫剤の種類(有機リン系・ピレスロイド系),散布方法(空間噴霧,液体蚊取り,床全域噴霧,直撃噴霧,残留噴霧),製品の剤型(オイルベース・水べ一ス),床材質(フローリング・力一ペット・畳),換気率,温度および湿度のいずれが変化しても,諸条件下で散布者および居住者のリスクアセスメントができる汎用性のあるモデルとなった.なお,当該室内挙動予測手法は,化学物質の同様な挙動予測への適用が可能である.

技術情報

アラクロール毒性試験の概要(英文)

アラクロールは,米国モンサント・カンパニーが開発した一年生イネ科雑草および一部の広葉雑草を対象とする畑作用除草剤である.動物実験の結果,本剤の哺乳動物に対する急性経口,経皮,吸入毒性はいずれも軽微で,眼および皮膚一次刺激性は低い.モルモットを用いた皮膚感作性試験において陽性の反応が認められた.亜急性および慢性毒性試験の結果,主として肝臓および腎臓に検体投与による影響が認められたが,これらの影響には閥値が存在した.ラットを用いた慢性毒性/発がん性併合試験において腺胃,鼻部および甲状腺の腫瘍が認められたが,腫傷発生のメカニズムに関する試験研究の絡果,これらの腫傷は闘値の存在する非遺伝子傷害性の作用によって引き起こされていることが解明されている.これらの腫傷の発生に結びつく前段階の症状には閾値があり,最大耐量以上の用量でアラクロールを投与した動物実験においてのみ認められた.また,鼻部の腫瘍の発生には,ラットにおいてのみ認められる種特異的代謝が関与していた.このようにラットにおいて観察された腫瘍をヒトに外挿することは妥当ではない.この結論は,アラクロールヘの暴露量が最も高いと考えられるアラクロール製造工場の労働肯を対象とした疫学調査の結果,死亡率および腫瘍発症率の増加が認められなかったことからも支持されている.本剤には,哺乳動物生体内における遺伝毒性は認められず,正常な繁殖や発生過租を阻害することもなかった.
ここに要約した毒性試験成績の評価に基づき,ラットにおける慢性毒性/発がん性併合試験における無毒性量0.5mg/kg/日および安全係数100を用い,O.005mg/kg/日のADIが設定されている.
アラクロールは,ラッソー乳剤として昭和45年3月登録を取得して以来,大豆,とうもろこし,落花生,野菜,果樹等において雑草発生前土壌処理剤として広く使用されている.登録保留基準は,麦・雑穀(小麦を除く),大豆,大豆以外の豆類に0.05ppm,いも類,第二大粒果実類,小粒果実類,第一葉菜類,第二葉菜類,根・茎類,てんさい,さとうきびにO.Olppmと設定されている.

シモキサニルの毒性試験の概要

 シモキサニルについて,各種毒性試験を実施し,安全性を評価した.その結果,ウサギを用いた皮膚刺激性試験において,弱い刺激性が認められたのみで,経口,経皮毒性も低く,急性中毒の発現を示唆する有意な症状も認められず普通物に該当した.
 亜急性毒性,慢性毒性および発がん性試験では,いずれの動物種でも催腫瘍性は認められなかった.
 繁殖試験では体重減少等が認められたのみで,繁殖性に対する影響は認められなかった.
 催奇形性試験では胎仔に対して催奇形性を及ぽさないと判断された.
 変異原性については,遺伝子突然変異原性は陰性であった.DNA修復性および染色体異常誘発性は,in vitroにおける試験では陽性であったが,in vivoにおける試験は陰性であつた.
 薬理試験では高用量で唾眠延長,痙攣誘発作用,腸管輸送能の抑制および血液凝固(プロトロンビン)時間の軽度の遅延作用が認められた.
 シモキサニルは,その使用方法および一般的注意事項を遵守すれば,環境および作業者への安全性の高い薬剤である.


トップページへ


日本農薬学会

http://pssj2.jp/index.html


Copyright (C) 2003 Pesticide Science Society of Japan. All rights reserved.