Vol. 24 No. 3の要旨

報文

市販のイムノアッセイ・キットによる農薬の地表流出と圃場内収支の分析(英文)

傾斜地に散布した農薬の挙動を解明するため,地表流出モデル試験を実施し,表流水中の農薬濃度を市販のイムノアッセイ・キットを用いた免疫化学測定法で分析した.クロロタロニル(TPN)とダイアジノンの400ppm混合液を縦うねに植栽したキャベツ試験区(傾斜地:6−6.5゜のAとB区6.3m2とC区460m2)に散布した.散布1時間後に人工降雨(AとB区に60mm/hrで1O分間と23分間,C区に18.7mm/hrで30分間,翌日25.2mm/hrで10分間)を行い表流水を採取した.水流出率はA区とB区はともに1.2%,C区は1回目で6.0%,2回目で5.8%であり,これらの表流水を分析した結果,各農薬の流出率はTPNで0.14−0.62%,ダイアジノンでO.06−0.39%であった.免疫化学測定法と機器分析(GC)による分析結果を比較したところ,両者には大きな違いは認められなかった.さらに,人工降雨前後のキャベツ及び表面土壌を採取して免疫化学測定法で分析し,散布農薬の試験区内での収支を推定した.キャベツや表面土襲への付着はTPNのほうがダイアジノンより多かった.C区ではキャベツに付着した農薬は1回目の降雨で約半分が洗い落されたが,翌日の降雨では極くわずかであった.土襲表層における農薬残留量は2回目の降雨前と降雨後でもほぽ同じ残留量であった.

アゾール系殺菌剤メトコナゾールとその関運アゾリルメチルシクロアルカノール誘導体の構造活性相関(英文)

シクロペンタン環を基本骨格とするアゾール系殺菌剤メトコナゾール,(1RS, 5RS; 1RS, 5SR)-5-(4-クロロベンジル)-2, 2-ジメチル-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)シクロペンタノールの誘導体として,シクロアルカンの2位が無置換あるいはgem-ジメチル基を有するシクロペンタノール,シクロヘキサノール,シクロヘプタノール類を合成し,構造と殺菌活性について検討した.その結果,シクロアルカン2位に置換したジメチル基はいずれも活性の向上に大きく寄与した.ジアステレオマー間の比較では,シクロペンタノール類とシクロヘプタノール類ではシス体がトランス体より活性が高く,一方シクロヘキサノール類の場合はトランス体がシス体より活性が高かった.シス体間の活性比較では,シクロペンタノール類とシクロヘプタノール類は高い活性を示したが,シクロヘキサノール類は前2者に比べて低かった.環の員数の違いによる活性の差を,コンホメーション解析から検討した結果,シクロアルカン構造に起因するベンゼン環とトリアゾール環の3次元空間配置と殺菌活性に相関があることが示唆された.

アセタミプリド2%粒剤の各種土壌処理法におけるキャベツのモモアカアブラムシに対する効力(英文)

アセタミプリド2%粒剤の各種処理法によるモモアカアブラムシに対する効力を調べた.植え穴処理では,徐放性と非徐放性の粒剤について2種類の土壌(藤沢土壌と函南土壌)の圃場で試験を行ったが,1g/株ではいずれの処理区においても優れた効力を示した.さらに,アセタミプリドの徐放性粒剤の各種処理法による効カを検討した.苗箱処理では,O.5g/株で処理7週間後でも植穴処理と同様卓効を示した.また,植溝処理で3kg/lOa,全面混和処理では6kg/10aでアブラムシを低密度に抑えた.いずれの薬量もコナガとの同時防除を想定して設定したものであるが,この薬量でアブラムシに対して長期間密度を抑制した.一方,非徐放性の粒剤はトップドレッシング処理の1g/株処理で高い効力を示した.

疎水性高分子で被覆した放出制御粒剤の溶出挙動における被覆条件の影響(英文)

モデル薬物としてメトミノストロビンを用い,粒剤表面を疎水性高分子で被覆した徐放性粒剤からの溶出挙動におよぽす被覆方法(高分子液の滴下または流動層造粒機による被覆)と被覆液中の高分子濃度(5および50%)の影響を調べた.その結果,1)高分子濃度50%の被覆液を用いて滴下または流動層造粒機で被覆した場合,薬物の放出速度は滴下による被覆法>流動層造粒機による被覆法であったが,溶出機構は同一であった.2)流動層造粒機による被覆の場合,薬物の放出速度は高分子濃度5%く50%で,溶出機構が異なった.これらの原因は,粒剤表面の被覆膜における細孔の大きさや数の違いによることが示唆された.(放出制御された育苗箱施用粒剤に関する研究(第2報))

殺菌剤メパニピリムの土壌吸着とその機構(英文)

14C標識メパニピリムを用い,その土壌吸着性および吸着特性を5種類の畑土壌について調べた.3段階の濃度で実施した吸脱着試験の結果,メパニピリムの土壌吸着はフロイントリッヒの吸着等温式によく適合した.吸着係数Kfは12.9から427であり,1/nはすべての土壌で1より小さかった.また,Kfを有機炭素含量で割り算出したKf,ocは,1090から5210であった.脱着においてヒステリシスが認められた.メパニピリムの吸着はpH依存性であり,pHの低下に伴い増加し,pKa(2.9)付近で最大となった.このpH依存性には,プロトネーションしたメパニピリムと土壌コロイドの負電荷との間のイオン結合が関与していると推察された.過酸化水素により土壌有機物を分解すると,全ての土壌でKf値が減少した.pKa以上のpHにおいて,過酸化水素処理した土壌への吸着も,pHの低下にともない増加した.

短報

メトミノストロビン放出制御粒剤の育苗箱施用におけるイネいもち病防除効果の持続性(英文)

メトミノストロビン (E)-2-methoxyimino-N-methyl-2-(2-phenoxyphenyl)acetamideの溶出速度がほぽ一定である放出制御粒剤を,酢酸ビニル-アクリル共重含体を粒剤の表面に被覆することにより,調製した.本剤を育苗箱に施用した時のメトミノストロビンの稲体中濃度およびいもち病防除効果を非放出制御粒剤のそれらと比較した.その結果,放出制御粒剤はメトミノストロビンの稲体中濃度を長期にわたって維持することができ,イネいもち病の防除効果の持続性にも優れていることが認められた.(放出制御された育苗箱施用粒剤に関する研究(第1報))

シハロホップブチルの茎葉処理におけるアジュバントの添加効果(英文)

シハロホップブチルの茎葉処理剤としての経済性及び効果の安定化を追求するために7種類のアジュバントの生物効果を屏東(台湾)で評価した.供試したアジュバントのうち特に優れた効果を示したアジュバント,アルキフェノールグリコールエーテル系のPolyglycol 26-2(以下PG26-2と略記する)を選択した.PG26-2をシハロホップブチル30%乳剤に混用し,ヒエに対する効果,イネに対する薬害及び耐雨性に関して検討した.2〜3葉期のヒエを90%以上コントロールするにはシハロホップブチルの薬量が60 g ai/haの場含,0.1〜0.4%のPG26-2の添加を要した.また,4〜5葉期のヒエを90%以上コントロールするにはシハロホップブチルの薬量が120 g ai/haの場含,0.2〜0.4%のPG26-2の添加を要した.シハロホップブチルが360 g ai/haの高薬量で0.4%のPG26-2の添加の際にも稲に対する薬害は全く認められなかった.耐雨性はPG26-2を0.1〜0.4%添加することにより効果が著しく増強された.以上の結果からPG26-2をシハロホップブチルに添加することにより茎葉処理剤としての薬量を軽減させ,また効果を安定化出来ることが示唆された.

解説

いもち病菌の代謝産物(英文)

いもち病菌はイネをはじめ多くのイネ科植物やその他の植物に寄生する.寄主植物の異なるいもち病菌について,それぞれが生産する代謝産物を調べた結果,代謝産物の生産性から,少なくとも次の6つのタイプに類別された.すなわち,・ジヒドロピリキュロール型,・ジヒドロピリキュロール/ピリカラシン型,・ジヒドロピリキュロール/オリゾイド酸型,・サイトカラシン型,・シペリン型,・ジンギバトリオール型である.それらの生産性と寄主植物への寄生性を見てみると,・型には,イネ,エノコログサ,アワ,シコクビエ,オヒシバ,オオムギ,トールフェスク,ハルガヤ,ブッフェルグラス,ロブスタグラス,ジュズダマ,・型には,メヒシバ,キビ,トウモロコシ,マコモ,ネズミムギ,・型には,エゾノサヤヌカグサ,・型には,コブナグサ,・型にはネズミガヤ,・型にはミョウガにそれぞれ寄生するいもち病菌が属していた.

技術情報

アジムスルフロンの毒性試験の概要

アジムスルフロンについて,各種毒性試験を実施し,安全性を評価した.その結果,経口,経皮毒性ともに低く,急性中毒の発現を示唆する症状も認められず普通物に該当した.眼および皮膚に対する一次刺激性,皮膚に対する感作性では非常に軽度な眼刺激性が認められた.慢性毒性および発がん性試験では,いずれの動物種でも特異的な標的臓器は認められず,催腫瘍性も認められなかった.繁殖試験では体重減少等が認められたのみで,繁殖性に対する影響は認められなかった.催奇形性試験では胎仔に対して催奇形性は認められなかった.変異原性は,復帰変異試験,DNA修復試験および染色体異常試験のいずれにおいても陰性であった.薬理試験では高用量で中枢神経系,呼吸・循環器系に対する影響が認められた.アジムスルフロンは,その使用方法および一般的注意事項を遵守すれば,安全性の高い薬剤である.


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日本農薬学会

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