日本農薬学会 Pesticide Science Society of Japan
HOME学会誌掲載論文26巻4号

Enantioselective Antifungal Activity of Pefurazoate against Pathogens of Rice Seed Diseases
イネ種子病原菌に対するペフラゾエートのエナンチオ選択的抗菌活性


Mitsuaki TAKENAKA, Takashi NISHIMURA, Keisuke HAYASHI
竹中允章,西村 孝,林 敬介


日本農薬学会誌 26, 347-353 (2001)

ペフラゾエートは,エルゴステロールの前駆体である24-メチレンジヒドロラノステロールの14α位脱メチル阻害剤であり,その化学構造には不斉炭素原子1個を有する.ペフラゾエートの(S)-(−)-異性体は,(R)-(+)-異性体に比べ,イネばか苗病菌に約30倍の抗菌活性を示すことを既に報告した.この抗菌活性におけるエナンチオ選択性の要因は,不斉炭素原子に隣接する窒素原子に立体的に嵩高い2-フラニルメチル基が置換しているためであると考えられた.そこで,このペフラゾエートのエナンチオ選択的抗菌活性の要因を立証するため,ペフラゾエートのN-メチル類縁体の(R)-(+)-異性体と(S)-(−)-異性体を合成し,それらの菌叢生育阻止試験による抗菌活性を検定した.ペフラゾエートはイネばか苗病菌と同様,イネごま葉枯病菌およびイネいもち病菌に対してもエナンチオ選択的抗菌活性を示したが,ペフラゾエートのN-メチル類縁体では,これら3種の病原菌に対しエナンチオマー間の活性差はほとんど認められず,また,14C-酢酸を基質にしたイネばか苗病菌のエルゴステロール生合成阻害程度においてもエナンチオマー間での選択活性を示さなかった.そこで,その要因を考察するため,ペフラゾエートとそのN-メチル類縁体の(R)-および(S)-異性体の安定分子形状を相互に比較検討した.ペフラゾエートとそのN-メチル類縁体のエナンチオマーは,いずれも油状液体であり,X線構造解析が困難なため,結晶で得られたペフラゾエート誘導体の単結晶X線構造解析を行いコンピューターによる構造の最適化によりペフラゾエートとそのN-メチル類縁体の安定立体構造を求め,それらの形状を比較した.その結果,フラン環部分以外のペフラゾエートの安定分子形状は,N-メチル類縁体のそれと類似していた.フラン環を有しないN-メチル類縁体では,(R)-および(S)-異性体間で抗菌力とエルゴステロール生合成阻害力に差が認められないことより,ペフラゾエートにおけるフラン環の占める空間とその配向の違いが抗菌力とエルゴステロール生合成阻害におけるエナンチオ選択活性の要因であると推察された.


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