日本農薬学会 Pesticide Science Society of Japan
HOME学会誌掲載論文25巻1号

ブタクロールの毒性試験の概要



日本農薬学会誌 25, 75-83 (2000)

ブタクロールは,米国モンサント・カンパニーが開発した一年生イネ科雑草および一部の広葉雑草を対象とする稲作用除草剤である.動物実験の結果,本剤の哺乳動物に対する急性経口,経皮,吸入毒性はいずれも軽微で,眼および皮膚一次刺激性は低い.モルモットを用いた皮膚感作性試験において陽性の反応が認められた.亜急性および慢性毒性試験の結果,主として肝臓および腎臓に検体投与による影響が認められたが,これらの影響には閾値が存在した.ラットを用いた慢性毒性/発がん性併合試験において腺胃,鼻部および甲状腺の腫瘍が認められたが,腫瘍発生のメカニズムに関する試験研究の結果,これらの腫瘍は閾値の存在する非遺伝子傷害性の作用によって引き起こされていることが解明されている.これらの腫瘍の発生に結びつく前段階の症状には閾値があり,最大耐量以上の用量でブタクロールを投与した動物実験においてのみ認められた.また,鼻部の腫瘍の発生には,ラットにおいてのみ認められる種特異的代謝が関与していた.このようにラットにおいて観察された腫瘍をヒトに外挿することは妥当ではない.この結論は,ブタクロールへの暴露量が最も高いと考えられるブタクロールおよびアラクロール製造工場の労働者を対象とした疫学調査の結果,死亡率および腫瘍発症率の増加が認められなかったことからも支持されている.本剤には,哺乳動物生体内における遺伝毒性は認められず,正常な繁殖や発生過程を阻害することもなかった.
 ここに要約した毒性試験成績の評価に基づき,ラットにおける慢性毒性/発がん性併合試験における無毒性量1mg/kg/日および安全係数100を用い,0.01mg/kg/日のADIが設定されている.
 ブタクロールは,マーシェットR粒剤として昭和48年3月登録を取得して以来,水田用の雑草発生前土壤処理剤として広く使用されている.登録保留基準は,米に0.1ppmと設定されている.


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