日本農薬学会 Pesticide Science Society of Japan
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会長メッセージ


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日本農薬学会 会長  宮川 恒

ごあいさつ

このたび第19期(2011年4月〜2013年3月)の会長を務めることになりました。

松本前会長から運営を引き継ぐべく準備を進めていた矢先の2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。亡くなられた多くの方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、今も被害に苦しんでおられる方々に、一日も早い復興をお祈りいたします。

日本農薬学会はこの震災による混乱と被害の大きさを考慮し、3月15日から開催する予定であった第35回大会を中止いたしました。併せて評議員会と総会も中止となったため、その後の会務運営に様々な支障を来すこととなりました。対応策として、電子メールによる評議員会と、36号2巻とともにお送りした書面による総会を開催し、その結果をもってこのたび新しい体制のスタートに至った次第です。会員のみなさまにはいろいろと御不便をおかけしましたことと存じますが、御容赦くださいますようお願いいたします。

さて日本農薬学会は、1975年の設立以来35年以上にわたり、農作物を病害虫や雑草の被害から守る薬剤=農薬の研究を支え、我が国のみならず世界の作物保護技術の向上に大きく貢献してきました。また、様々な情報発信を行って農薬の役割や安全性、環境影響に関する社会の理解を深めてきました。

今期も引き続き、学術小集会活動の支援、学会誌の充実、各種セミナー開催を通じた交流の促進などに力を入れ、会員の期待に応えるべく学会のアクティビティを上げていきたいと考えております。

一方、今期は、作物保護のための農薬学の原点を見つめ直し、その基盤としての化学と生物の領域の研究強化・支援を図りたいと考えています。大変残念なことに社会の農薬に対する反感はいぜん根強く、近年は公的な研究機関でも「農薬を使わない病害虫防除」を目指すことが支援される傾向があります。確かにその方向も重要ではありますが、まだまだ病害虫雑草防除の主役は化学農薬です。そして化学農薬を使った防除を引き続き更に洗練させていくことが、当学会の重要な責務であると考えています。また、作用機構が不明な薬剤もまだまだあります。農薬活性をもった低分子化合物の作用を調べることで、様々な生物の機能を明らかにするという「化学生物学」の立場からの興味深い研究テーマもたくさんあります。このような基礎科学としての農薬学の魅力を広くアピールできるよう、昨年日本学術会議農学委員会の中に設置された植物保護科学分科会とも連携をとりながら、活発に活動を展開していきたいと思います。

間口が広く奥行きも広い農薬学を扱う本学会では、取り組むべき学術的および技術的課題も多岐にわたります。しかし残念ながら現在のところ、すべての課題に深く関わっていける陣容が整っているとは言いにくいところがあります。本学会が現在得意にしている分野は、これまでの活動の経緯から見て、やはり作物保護に関する化学と生物学、農薬の生体内や環境中での挙動に関する分析化学などでしょう。製剤・施用法に関する理論や技術も、本学会が研究活動の中心になるべき場所です。一方、社会で関心が高い毒性の問題に関しては、会員の中にまだまだそれを論じるためのエキスパートが不足していると言わざるを得ません。農薬の使用方法や規制についての考え方や将来への指針を、自らの研究成果に基づいて提言していくことは本学会の大きな使命であり、今期もこの体制を整えていくために努力を継続する必要があります。この分野の重要性を理解し積極的に活動してくださる方の参加を求めていきたいと思います。ただし、あくまでも本学会が得意とするのは「作物保護」のエキスパートとしての活動です。この方面の活動を更に活性化していくことが、もっとも重要であろうと考えています。

インターネットの普及により求める情報はすぐに手に入る時代になりましたが、逆にこのような情報の氾濫状態でこそ、face-to-faceの交流に基づいた情報の選別あるいは「生」の情報の交換が重要になると思われます。是非学会を積極的に利用していただき、皆さまのますますの御発展に役立てていただきますようお願いいたします。

会員の皆さまのなお一層の御支援と御協力、そして皆さまからの様々な情報発信を期待しております。

平成23年6月

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