日本農薬学会

会長挨拶

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日本農薬学会会長 米山 弘一

このたび日本農薬学会第21期(2015年4月~2017年3月)の会長を務めることになりました。本会は、諸先輩方および会員の皆様のお力添えにより、創立40周年の節目を通過し、創立50周年に向けて新たな歩みを進めております。日本農薬学会では、作物保護や農薬をめぐる諸問題を考える学問・技術、すなわち農薬科学の総合的な進歩発展を目的として、会誌その他の出版物の刊行、大会、講演会、研究会の開催、会員の研究の奨励および表彰、関連諸学会、諸団体との連絡および協力などの事業を行っています。これらの学会の事業の内容やスタイルは学会創立時に比べると大きく変わっているものもあります。会誌の英文誌・和文誌の分冊化とオンラインによる早期公開は、国内でも多くの学会が既に導入しており、学会誌および学術誌のスタンダードスタイルになりつつあります。また、役員選挙も今回初めて電子投票として実施されましたが、アメリカ化学会など多くの国際的な学会ではスタンダードです。今後、このようなインターネットを介した学会活動の重要性がますます高まる中で、学会としての対応体制および情報管理システムの更なる充実を図る必要があると考えています。例えば、創立40周年記念事業の一環として、会誌、講演要旨集、研究会資料および学会で出版した書籍等のアーカイブ化を行い、学会ホームページから会員の皆様にご利用頂けるシステムを構築します。会誌、講演要旨集などについては定期的にデータを追加・更新する予定です。

神山洋一農薬工業会会長は創立40周年記念講演会の中で、「1.農薬に対する理解促進、啓発についての農薬工業会との連携、2.農薬の有用性、安全性に関する学術的根拠の充実、3.農薬科学、レギュラトリー科学、応用的農薬科学の牽引、4.農薬学/農薬産業の担い手の育成、指導」の4点を日本農薬学会に期待したいと述べられました。私自身、大学教育に携わる者として、農薬に対する正確な知識・理解と農薬(科学)の担い手の育成、指導には責任があるわけですが、「座学」だけでは極めて難しいと感じています。最近、大学でもアクティブラーニングが積極的に取り入れられています。学生自身が自分の問題として能動的に取り組むことによって、例えば、農薬の重要性について正しく理解できるものと考えています。神山会長が指摘されているように、本会では、農薬の有用性、安全性に関する学術的根拠と基礎的および応用的農薬科学の牽引に資する情報を専門的立場から詳細かつ厳密に吟味して提供すべきでしょう。

農薬が、現在もそして今後も、拡大する食糧需要に対応する生産技術を支えることには疑う余地もありません。しかし、農薬工業会を始めとする多くの方々の努力にもかかわらず、農薬に対する理解は十分とは言えません。センセーショナルであるが実際には間違った情報が発信されると、その後に訂正されることが少ないため、間違った情報だけが記録に残ることが多いことになります。最近の例では、ナイジェリアで発生した原因不明の死亡事故が挙げられます。事故原因としては、エボラ発生地帯であったため、未知のウイルス感染症が疑われました。しかし、ウイルスなどは検出されず、WHOの職員が「除草剤による中毒死の可能性が高い」とツイートし、それが大きく報道されました。実際には密造ハーブ酒によるメタノール中毒死なのですが、訂正記事は大きく取り扱われず、ネットで検索すると「除草剤による中毒死の可能性が最も高い」という記事がヒットすることになります。このような場合、正しい情報が確認された時点で、学会のホームページに適切なコメントを載せておくこともできるでしょう。

一方では、取り扱いが難しい問題もあります。例えば、ネオニコチドイド殺虫剤と蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder、CCD)の関連性です。CCDの原因としては他にもダニ、ウイルス、各種のストレスなどが挙げられており、それぞれがどの程度寄与しているのかについては正確に把握されていないため、現状ではまだ学会としてコメントするのは難しいと思います。また、WHOの下部組織である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)が、現在世界で最も大量に使用されている除草剤グリホサートを発がん性評価基準のGroup 2A (probably carcinogenic to humans)に分類したことで、一般の方には、やっぱり農薬は危ないという印象を与えてしまったようです。このような場合には、Group 2Aに分類されることがどのような意味を持つのかを科学的に正しい情報として学会から発信することが必要です。

日本では多くの学会で会員数が減少しています。その一方で、新しい分野に対応した学会、研究会が創設されています。そこで日本農薬学会では、伝統的な研究分野に加えて新しい研究分野に対応した学会活動を推進して行きたいと考えています。そのためには学生会員を含む若手の会員の皆様に、より積極的に学会活動に参加頂き、活動の幅を広げていきたいと思いますので、ご協力の程、宜しくお願い致します。

平成27年4月